俺は君に言いたいことがある 耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ。 謝らない、謝れない夫

学校での出来事

俺は君に言いたいことがある 耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ

えっと、オレは男。 キミは女。 オッケー?」 後輩「……すみません。 馬鹿にしてる?」 後輩「ど、どうしてそう思うんですか? 私は先輩の言っていることが本当にわからなくて……」 男(たしかにそうだ) 男(オレは知っている。 私、あんまり勉強できないから、なにも知らなくて……」 男「ごめん。 しつこいかもしれないけど、もう一度だけ聞く」 後輩「はい」 男「本当にキミは、男も女もわからないんだよね?」 後輩「……ごめんなさい」 男「じゃあ、キミはなんなの?」 後輩「なんなのって……人間ですか?」 男「人間はわかるんだ」 後輩「さすがにそれはわかりますよ。 いつの間に寝たんだろ……?) 男(課題やってるうちに寝ちゃったのかな……) 男「……いや、ちょっと待て」 男(ここはどこだ? オレの部屋じゃない) 「んっ……」 男「へ?」 「んー……」 男「ええええぇっ!?」 男(オレはベッドで寝ていた。 昨日遅かったんだから……もう少し寝かせてよ」 男「あ、あの……申し訳ないんですけど、起きてもらってもいいですか?」 ?「なんでよー。 なんかいいことあった? ていうか、髪どうしちゃったの?」 男(女子の裸を見れたからね、とか余裕があったら返したいけど) 男「……ひとつ聞いてもいいですか?」 ?「さっきからよそよそしいね。 しかも……エッチ?) 男(……待て待て待て! オレはセックスしたのか!? 知らない女と!?) 男(バッドコミュニケーションにもほどがあるだろ!!) 男(いや、ちがう。 たしかに珍しいな」 男(振り返るとクラスメイトの女子がいた) 女「……って、どうしたのその髪?」 男「昨日からなにも変わってないと思うけど」 女「昨日は会ってないから知らないけど。 すごく短くなったね」 男「……昨日会っただろ?」 女「会うわけないよ。 あたし、アリスカフェ行きたいんだ」 男「そう……」 女「予定はあたしが決めるから任せておいてねっ」 男「お、おう。 ところでさ……」 女「あっ! いけない! このままだと遅刻しちゃうから行くね!」 男「……わかった。 ただ……」 姉「ふんっ。 じゃあいいです。 ただ呼び止めてと言ったのです」 黒服「申し訳ありませんっ!」 「この人にも謝って!」 黒服「……この度の無礼、申し訳ございませんでした」 男「はあ……」 男(黒服五人組が、いっせいに頭を下げた。 そろいすぎだろ) 「ごめんね。 お嬢「今ごろ気づいたの?」 男「だって、いきなりコワイお姉さんたちに囲まれちゃったからさ」 お嬢「本当にごめんね。 大丈夫?」 男「うん、特になにかされたわけじゃないしな」 男(金髪色白の『お嬢』。 彼女はあだ名のとおり、金持ちのお嬢様) 男「それにしても、この人たちはいったいなんなの?」 黒服「……」 お嬢「この人たちは、私の護衛。 今日は湿気もそんなにないから、日陰だと涼しくていいね」 男「……うん」 お嬢「どうしたの? 表情がひきつってるよ?」 男「いや、目の前の黒服の人たちがきになっちゃって」 お嬢「だから、気にしなくていいの」 男「無理だろ。 目の前に並んでんだぞ」 お嬢「私はあなたの髪型の方が気になる。 お嬢「また適当なことばかり……!」 男「なにも適当なことを言ってないよ」 お嬢「嘘よっ。 男「お、お、お、お、おおおおおおおお……!」 お嬢「あなたは私にだけあの秘密を教えてくれたでしょ?」 男「ひ、ひひ秘密!?」 お嬢「そう、私とあなただけの秘密」 男(絡む腕の力が強くなる。 お嬢「どうして?」 男「えー……熱いからかな?」 お嬢「……ごめんなさい。 こんな日にすることじゃないよね」 男(っあぶねえ! マジでとろけるかと思った!) 男「ごめん! ちょっと用事思い出したからもう行くわっ!」 お嬢「まだいいでしょ? ……ダメ?」 男「ダメだダメだダメだ!」 黒服「お前っ! お嬢様の頼みをそんなぞんざいに……」 お嬢「やめて」 黒服「はっ!」 男「本当にごめんっ。 オレって実はモテモテだったのかな) 男(……) 男(いや、そんなわけないわ。 男(汗だくで喘いでいるオレの前に現れたのは、後輩の『レミちゃん』だった) 後輩「汗だくですけど、大丈夫ですか?」 男「あ、いや、大丈夫。 ちょっと朝のマラソンをしてただけなんだ」 後輩「はあ……マラソンですか」 男「そうそう。 今ってもしかして八月?」 後輩「はい。 八月で夏休みですね」 男「それってマジで言ってるよね?」 後輩「……はい。 男(ヤバイ。 頭がクラクラしてきた) 後輩「だ、大丈夫ですか?」 男「な、なんとかね」 後輩「もしかして熱射病ですか? だったら水分を取ったほうが……」 男「いや、そういうことじゃないんだわ。 ちょっと動揺しただけだから」 後輩「……本当ですか?」 男「本当だって」 後輩「それだったらいいんですけど」 男「それに、オレは男の中の男だぜ。 なんか飲むか……ん?」 後輩「どうしました?」 男「あ、あれ? サイフがない。 どこやったんだろ?」 後輩「貸しましょうか?」 男「でも後輩にお金を借りるのは……」 後輩「遠慮しないでください。 あとでお金は返すね」 後輩「缶ジュース一本ぐらい、気にしないでくださいよ」 男「ダメダメ。 男として情けない」 後輩「オトコとして、ですか……」 男「ぷはっ……やっぱり夏場に飲むポカリはうまいね」 後輩「……」 男「ん? どうした?」 後輩「い、いえ。 なんにもです」 男「もしかして喉かわいた?」 後輩「ちょっとだけ。 A 男「いいもなにも、レミちゃんが買ってくれたんだし」 後輩「えっと、じゃあすみません。 A 男(うん。 間違いなくダメだ) 後輩「……先輩?」 男「どう説明しようか考えてたんだけど……」 後輩「ウィキペディアとかには載ってないんですか?」 男「そうか! それだよ、なんで思いつかなかったんだろ」 男(オレはスマホで男と検索することにした) 男「……って、『男』って漢字が出てこないな」 男(まあひらがなで検索すればいいか。 A 男「ない」 後輩「なにがないんですか?」 男「男って検索しても出てこないんだ……」 後輩「……」 男「そ、そうだ。 女って検索すれば…………」 男(指がふるえた。 女という漢字が出てこない。 ひらがなで検索する) 男「…………」 後輩「…………」 男「は、ははは……どういうことだよ、これ」 男(男、そして女。 A 男(そのほかにも『性別』とか適当な単語で検索したけど、どれも引っかからない) 男「ごめん。 思いっきりほっぺたつねってもらっていい?」 後輩「……つねればいいんですか?」 男「うん、ちょっと目を覚ましたい。 頼む」 後輩「それじゃあ……えいっ」 男「……ごめん、全然それだと痛くない。 むしろ少し気持ちいい」 後輩「こうですか?」 男「イテテテテテっ! 痛いっ! もういいっ!」 後輩「ご、ごめんなさい。 A 男(つまり、男っていう存在がいなくなったことで) 男(性別って概念も消えたってことか?) 男(いや、そもそも実は男なんていなかったんじゃね?) 男(でもそうだとすると、オレはどうなる?) 男「……」 後輩「な、なんで私のす、スカートの部分を見るんですか……?」 男「あっ、ごめん。 A 男(股間の息子が家出してたらどうしよう、とか思ったけど) 男(そんなことはなかった) 男「もういいよ。 A 男「だって、女だけだったらセックスなんてできないし……」 後輩「な、なんでそんなことを私に聞くんですか……!?」 男(しまった。 A 男(わかったことを簡単に要約するとこうなる) 男(この世界に『男』はいない。 A 男(これじゃあ、世界から男が消えたとかそういうことじゃなくて……) 男(世界の秩序そのものが、変わってしまったみたいじゃないか) 男(そんなことってあるか……?) 男「なあ……」 後輩「はい」 男「朝起きたら世界がおかしくなってる、なんてことあるかな?」 後輩「ないと思いますけど……」 男「そうだよな。 A 男「さっき男ってものについて話したよね?」 後輩「はい。 A 後輩「その……胸がないのが……オトコなんですか?」 男「そうそう」 後輩「でも、胸のない人なんていくらでもいますよ?」 男「あー……ちがいはほかにもあるんだ。 ただ、それはちょっとね」 男(さすがにここで、『パオーン』とかやる勇気はないしな) 男(ていうか普通に犯罪だ) 男「それで、オレがなにを言いたいのかっていうと。 A 男(とにかくオレは時間をかけて、男というものについて) 男(そしてオレの知っているはずの世界が、あまりに変わってしまったことを説明した) 後輩「その……なんとなく、わかりました」 男「無理に信じてくれとは言わない。 もしかしたら、おかしいのはオレのほうかもしれないし」 後輩「……正直、私には難しすぎてよくわかりませんでした」 男「オレ、説明下手だからね。 理解できないのはそのせいだよ」 後輩「……でも、先輩はこんなことで嘘をつかないとは思います」 男「……信じてくれるの?」 後輩「はい。 ちょっと、嬉しかったです」 男「まあ、その……そうだな」 男(この子が今のところ、オレの知ってる連中の中では一番変化がないからな) 後輩「でも、仮に本当に先輩の言っているとおりだとして、どうするんですか?」 男「どうするって、なにが?」 後輩「先輩の言うとおりだとしたら、世界は変わってしまったんですよね?」 男「ああ、そういうことか」 男(たしかにそうだ) 男(女しかいない世界。 Lkc 姉「……なに?」 男「ひょっとしたら、オレ、記憶喪失になったのかもしれません」 姉「え? 本気で言ってるの?」 男「はい。 ほとんど記憶がなくなってしまって……。 Lkc 男(レミちゃんと相談して、とりあえず記憶喪失のふりをすることにした) 男(そして) 男『一度家に戻って状況をおさらいしてみるよ』 後輩『そのほうがいいかもしれませんね』 男『わざわざ話を聞いてくれてありがと。 少し気がらくになったよ』 後輩『いえ……あの、もしよかったら、このあと一緒に……』 男『ん?』 後輩『迷惑じゃなかったら……一緒にどこかへ出かけませんか?』 男『そうだなあ。 街の様子とかも、なにか変わってるかもしれないしな』 後輩『じゃあ……!』 男『うん。 Lkc 男(というわけで、家に戻ってきたんだけど) 姉「自分のこともまったく思い出せないの?」 男「はい。 そっちもけっこう忘れてて……ボク、どんな人でした?」 姉「いいのっ! あなたは過去の自分のことなんて知らなくていいの!」 男「いやいや、教えてくださいよっ!」 姉「知ればきっと死にたくなるし、お姉ちゃんも言うのがつらいの」 男「は、はあ……」 姉「心細いだろうけど大丈夫! お姉ちゃんはあなたの味方だから!」 男「ありがとうございます……」 姉「敬語はやめてっ。 Lkc 男「その……よくわからないけど、ごめんね」 姉「許してあげる。 今のあなたはとってもいい子だものっ!」 男「のわぁっ!?」 姉「久々に話したらハグしたくなっちゃった……」 男「いや、もうしてるし!」 姉「ふふふっ、嬉しいなあ」 男(や、やばい……『実の姉』なのに抱きしめられると、その……) 男(女性らしい柔らかい感触。 甘い匂い。 Lkc 男「ちょっとシャワーを浴びたいから、はなれてくれる?」 姉「じゃあ一緒に入っちゃう?」 男「だ、大丈夫だからっ!」 男(落ち着けオレ! この人は、もとは兄ちゃんだったろうが!) 男(実の兄に興奮するとか変態の極みじゃないかっ!) 姉「もう照れちゃって……かわいいんだからっ」 男「ち、ちがうし……! あー、とにかく風呂に入るっ」 姉「はいはい。 男物と女物でこんなにちがいが出るとは) 男「うわあ、足のラインがメチャクチャ気持ち悪いし、ピッチリしてる……」 男(Tシャツにしても、ちっちゃいよこれじゃあ) 姉「お風呂たまったよー!」 男「あ、うんっ。 あんまりにも先輩の顔が赤かったので……ふふっ」 男「…………」 男(当たり前だ。 今のオレは変態そのものなんだ) 男(本来だったら、全員がオレに注目しそうなものなんだけど……) 男(誰もオレの方は見てないよな?) 後輩「それで……どこへ行きましょう?」 男「あー、そうだな。 とりあえず服が見たいんだけど、いい?」 後輩「はい。 ワッフル専門店なんだけど、どうかな」 後輩「私……ワッフル大好きなんです」 男「おっ、ちょうどいいね」 後輩「はい。 行きたいです」 男「じゃあ行こっか」 後輩「はいっ」 男「とは言っても、もう着くんだけどね」 後輩「本当に近いですね。 それに……すごいオシャレな感じです」 男「オレもひとりじゃ入れないかな。 なんだったんだろ。 イタズラかな?」 男(でも、どこかで聞き覚えのある声だった) 男(それに殺してやるって……) 男「……まあいいや。 兄ちゃん……じゃなかった。 姉ちゃんに聞いても、答えてくれなかったんだ」 後輩「そうですね……」 男「もしくは、誰かに恨まれてたりとか。 誰の連絡先もわからないんだ」 後輩「私のでいいんですか?」 男(なぜか目を丸くするレミちゃん。 女子ってよくスカートを短くできるな) 男(そういうのに抵抗があるのは、オレが男だからか?) 「おい。 a7bBV6 お嬢「ねえ!」 男「のわあっ!? な、なんだよ急に……? 」 お嬢「だってずっと私が呼んでいるのに、反応してくれないんだもの」 男「ちょっと考え事してただけだよ」 お嬢「また、そういうことを言って。 いつでも考え事してるんだから……」 男(みんなが言っているオレについての記憶は、オレにはないんだよなあ) 男(そもそも、その以前のオレと今のオレっていったいどういう関係なんだろ……) お嬢「ほら。 また考え事してる」 男「だって……」 お嬢「少しはもとに戻ってくれたと思ったのに……どうせ私と前にした約束も覚えてないんでしょう?」 男「約束? オレ、なんかお嬢と約束したの?」 お嬢「ほら、やっぱり。 a7bBV6 お嬢「荷台がついてる自転車じゃないと二人乗りできないと思って、これ買ったんだよ」 男(そう言って唇を尖らせるお嬢が、なぜか急に異様にかわいく思えてきたのはどうしたんだろう) 男(ていうか自転車の二人乗りに憧れるって……) 男(オレも女子との二人乗りって行ったら、アイツとしかやったことがないけど) 男「二人乗りがしたいの?」 お嬢「……うん。 でもしてくれないんでしょ?」 男「いいよ、しようよ。 オレも二人乗りってあんまりしたことないし」 お嬢「……本当?」 男「おう。 でも、その……道路交通法、だっけ? そういうのって大丈夫なの?」 お嬢「それなら大丈夫! 私の家、お金持ちだからっ」 男(よくわからない理論だけど、お嬢の言うとおり、大丈夫なような気がしてきた) 男(ていうか目の輝きが半端じゃない。 a7bBV6 男「じゃあ今からお嬢の家まで自転車で行こうよ」 お嬢「本当? 嘘じゃない? 信じていい?」 男「おう! オレが家まで送り届けてあげるよ」 お嬢「じゃあさっそく行きましょ!」 男「おっけー。 オレが軽く自転車漕ぐから、それに飛び乗って……って無理かな?」 お嬢「ううんっ、その方法でいいからやりたいっ。 ううん、やらせてやらせて」 男「わかった。 ……あと、ひとつ言っていい?」 お嬢「なあに?」 男「……あんまり『やりたい』って言うのはその……」 お嬢「?」 男「やっぱりなんでもない。 a7bBV6 男(男と二人乗りしていれば、まず捕まったりされることもない。 けど、お嬢の場合) 男(あろうことかオレの腹に手を回して、からだを密着させてきた) 男(汗で濡れたオレの背中に、お嬢の柔らかいふたつのものが押し付けられる) 男「お、お嬢!? あの……あんまりしがみつかれると、漕ぎづらい……!」 お嬢「だ、だってどうしたらいいか……こうしないとバランスとれない……」 男「いやいや! 言うほどバランス取るの難しくないから!」 お嬢「むりっ!」 男(回された腕の力がより一層強くなる。 私がわがまま言ったせいで……」 男「ああ、大丈夫。 そういう体調が悪いとかってことじゃないから」 お嬢「無理しないで。 お茶かなにか出すから、あがっていって」 男「いいの?」 お嬢「もちろん。 ここまでしてくれたんだもの。 ……オモテナシさせて」 男「じゃあお言葉に甘えて」 お嬢「なんでそんなに腰を曲げて歩いているの?」 男「うん? いや、ちょっとね。 a7bBV6 男「それにしても、純和風って感じの家だな。 庭もデカイしいいなあ」 お嬢「なんなら毎日来てもいいよ?」 男「それはさすがに……。 それにしても、オレ、平屋に入るのって初めてかも」 お嬢「おばあちゃんのことを考えると、平屋の方がいいって話になってね」 男「へえ。 たしかに階段がない分、移動がらくそうだな」 お嬢「でも、屋根裏部屋はあるの」 男「へえ。 屋根裏って行ったことないから行ってみたいな」 お嬢「私の部屋なんだけどね。 それでもいいなら、行ってみる?」 男「お嬢の部屋か。 ちょっと興味あるな」 お嬢「本当!? 私の部屋に興味あるの!?」 男「え? まあ……うん、そうだね」 お嬢「嬉しい。 雑巾がけとか大変じゃない?」 お嬢「そういうのは、業者の方におねがいしてるの」 男「ああ、なるほどね。 まあこれぐらい建物自体がデカイと掃除も大変だよな」 お嬢「基本的に私も、自分の部屋しか掃除しないかな」 男「屋根裏っていうからすごい天井が低いのかなって思ったけど、意外と高いな」 お嬢「あんまり天井が低いと、部屋が使いづらいからね。 ……入って」 男「失礼します……うわっ、すごい広い! オレの家のリビングより広いんだけど」 お嬢「ちょっとひとり部屋にしては大きいよね」 男(ていうか、アイツの部屋以外の女子の部屋に入るって初めてだな) 男(なんだろう。 この鼻をくすぐる甘い匂い。 a7bBV6 お嬢「普段、友達とか呼ばないから座布団とかないの。 だからベッドにでも腰かけて」 男「……いいの?」 お嬢「逆に駄目なことなんてあるの? あ、もしかしてイヤ?」 男「ちがうちがう。 冷たい飲み物のほうがいいよね?」 男「うん。 冷たいならなんでもいいよ。 水でもいいし」 お嬢「遠慮しないで。 たいしたものは用意できないし」 男「そっか。 じゃあ頼む」 お嬢「うん。 なんならベッドで寝転がってていいよ」 男(それだけ言うと、お嬢は部屋から出ていった。 つまり、今のオレはひとりということだ) 男(落ち着かない。 部屋は広いし、なんだか女の子の匂いがするし……なにかよそ事を考えろ!) 男(……そうだ、女子の部屋で思い出した) 男(アイツについてレミちゃんに聞かないと。 とりあえずメールだけ送っておくか) 男(女子の部屋か。 オレが行ったことがあるのは、アイツの部屋だけ。 とりあえず緑茶とお菓子。 甘いものって好きだったよね?」 男「おおっ! おいしそう。 わざわざありがとな」 お嬢「気にしないで。 口に合うかどうかわからないけど……」 男「いただきますっ……んんっ、うまいっ!」 お嬢「……本当?」 男「うん。 バームクーヘンでこんなにおいしいもの、初めて食べた」 お嬢「よかった。 口にあわなかったら、どうしようって思ってたから。 ところで」 男「うん?」 お嬢「どうしてベッドから、わざわざおりて食べてるの?」 男「特に深い考えはないけど。 ベッドに食べかすが落ちたらイヤでしょ?」 お嬢「お尻痛くない? 食べ終わったらベッドにあがってね」 男「大丈夫だよ。 お互い、腕がむき出しなので肌が触れると……) 男「…………」 お嬢「…………」 男「……クーラーかかってて涼しいな。 汗もだいぶ引いてきたよ」 お嬢「逆に少し肌寒くない?」 男「そうかも。 急に温度が下がったからかな?」 お嬢「じゃあ温めてあげようか?」 男「……! えっと……お嬢?」 お嬢「……」 男(お嬢の手のひらがオレの手の甲に重なる。 覚えてくれてたんだね、公園でのこと」 男「さすがに、あんなにインパクトの強いことは忘れないよ」 お嬢「……嘘よ」 男「いや、こんなことで嘘はつかないよ」 お嬢「嘘よ。 だって、あなたってすごく人を惹きつけるもの。 なぜかはわからないけど」 男「それは……」 男(ちがう。 少なくともお嬢が言っているオレは、今のオレじゃない) お嬢「ねえ。 久々にしよ?」 男「!?!?!?」 男(気づいたときには押し倒されていた。 私が忘れさせてあげる」 男(こういうとき、経験がないとどうしていいのかわからないと知った) 男(肩を押さえつけるお嬢の手の力は、予想外に強い。 もうすべてを委ねてしまったら、いいんじゃないだろうか) お嬢「やっと抵抗をやめてくれたね。 ……どうしたの、緊張してるように見えるよ?」 男「実際に緊張しているんだよ……」 お嬢「もう一度言うね。 大丈夫だから。 全部私にまかせて」 男(オレの肩にかかる力がさらに強くなる) 男(ベッドに沈むからだと一緒に、思考まで沈んでいく。 もう全部放り出してしまおう) お嬢「んっ……なんだか久々だから緊張するね」 男「……」 男(オレにとっては初めてなんだよ。 だって、今のオレはお嬢の知っているオレじゃないんだ) 男(言ってみれば股間にエイリアンを飼っている、異種生命体!) お嬢「なんで……」 男「ご、ごめん。 今日はあの日なんだよオレ! いやあ大変だわー!」 お嬢「な、なにを言ってるの?」 男「……ごめん。 前からあなたが私といても全然ちがうことを考えてるのはわかってたもの」 男「……ごめん」 お嬢「ここのところはずっと、謝ってばかりだし」 男「……次からは気をつける」 お嬢「決めた。 ……私をふってくれない?」 男「え?」 お嬢「今みたいな曖昧な状態だから、ダメなんだよね。 だから……私をあきらめさせて」 男(唐突すぎる。 言い訳させてほしかった。 もう少し考える時間をくれと、言いたかった) 男(でも、そんな言葉は喉より上には出てこない。 お嬢の顔は真剣そのものだった) お嬢「私はあなたのことが好きです。 なにも考えられなかった。 お嬢が好きになったオレと今のオレ) 男(オレ自身もわかってないけど、それは別人と言っていい存在のはずだ) 男(お嬢は別のよく似たヤツに告白した挙句、勝手にふられたのだ。 そういえばあの子はこんなことを言ってなかったか?) 男(昨日学校に行った時) 女『こうやって、一緒に校舎まで行くのって久々だなって思って』 男『そうだっけ?』 女『そうだよ。 いや、でも驚くことでもないのかも。 ようは人間関係が変わっただけだからさ」 男(そう言ったオレの声は震えていた。 どうしてかはわからないけど) 男(幼馴染のことに続いて、お嬢のことも起きたせいでオレは完全に混乱していた) 男(オレは立ち上がって、公園に立っていた木に向かって思いっきり拳をぶつけた) 後輩「な、なにやってるんですか!?」 男「ううぅ…………い、痛いっ……! パンチってこんなに痛いのか……」 後輩「当然です。 でも、お嬢のはまたちがうケースだ」 男「せめ話が通じないとしても、きちんとあの瞬間に理由を説明するべきだったんだ」 後輩「……先輩って優しいんですね」 男「ちがう。 でも先輩と一緒なのはこれだけじゃないんです」 男「まだあるの?」 後輩「はい。 私もフラれたことがあるんです」 男「……レミちゃんでもフラれることなんてあるんだな」 後輩「私なんて……それに私も同じことを言われました」 男「好きな人がいるからってフラれたの?」 後輩「はい。 私、フラれたその場で泣いちゃって……」 男「……そっか」 後輩「……すみません。 こんな話をされたらかえって困りますよね?」 男「ちょっとね」 後輩「ごめんなさい。 人を元気づける方法っていう本に書いてあったんです。 これじゃあ困るだけで元気なんて出ませんよね……?」 男(申し訳なさそうに、しょんぼりとするレミちゃん。 なぜかオレは唐突にこの子を抱きしめたくなった) 男「……いや、なんか癒されたよ。 少し気がらくになった」 後輩「本当ですか!?」 男(今度は一転して表情を輝かせる。 ……よかったですか?」 男「うん。 オレの漫才の相方としてがんばってほしい」 後輩「私、漫才はちょっと……」 男(正直まだ頭の中を整理できてなかった。 男(それでも、せめてこの子の前では女々しいことを言うのはやめようと思った) 後輩「手を見せてください」 男「手? なに、おまじないでもかけてくれるの?」 後輩「絆創膏です。 ……慣れないことはしちゃダメだね」 後輩「今後ああいうことはやめてくださいね?」 男「うん……」 後輩「絆創膏貼るから、指を広げてもらっていいですか?」 男「これでいい?」 後輩「はい」 男(レミちゃんの指がオレに触れる。 ひんやりとした感触に、なぜか安心した) 後輩「……はい、これで大丈夫です」 男「ありがと。 ていうか絆創膏もってるなんて女子力高いな」 後輩「…………よくわからないですけど、ありがとうございます」 男(あっ、そっか。 夏休みってことで、私も例に漏れず……」 男「少しこの公園で休憩する?」 後輩「いいんですか? なにか用事とかないですか?」 男「特にはないし、あのベンチで少しだけ涼もうよ」 後輩「そうですね」 男(オレとレミちゃんは、並んでベンチに座った。 レミちゃんのまぶたがじょじょに落ちていく) 男(自然と彼女の体重がオレにかかる。 肩ぐらいなら貸すから」 後輩「……じゃあお言葉に甘えます。 ありがとうございます」 男「どういたしまして」 男(レミちゃんの頭がオレの肩にあずけられる。 彼女の髪の感触が心地いい) 後輩「……ちょっと工事の音が大きいですね」 男「あー、たしかにこんなにうるさいと少し眠るのも難しいかも」 男(なにかあったのかな。 ヤマダから返してもらったウォークマンがポケットに入っているけど) 男(ヤマダが故障してるって言ってたけど、使えないのかな……って、ついたぞ) 男「周りの騒音が気になるときは、イヤホンで曲を聴くといいらしいよ」 後輩「それ、先輩のウォークマンですか?」 男「うん。 ……少し憧れてたんだけどな」 男「ん?」 後輩「い、いえ……なんにもです。 オレも協力してもらってるし。 今も付き合ってもらってるし」 後輩「私も暇を持て余してるんで……」 男(それにしても、これからどうすればいいのかな) 男(もうヒントらしいヒントは、完全になくなってしまったと言っていい) 後輩「先輩はなにか食べたいものってありますか?」 男「そうだな……っと、赤信号だ」 男(人ごみに紛れて、オレたちは立ち止まった。 信号が変わるのを待つ。 転びはしなかった。 音が消える。 そして、遅く。 オレは目をつぶった) 後輩「先輩っ!」 男「のわぁ!?」 男(あまりにも強い力に引っ張られて、オレは尻餅をついた。 でも全く痛みは感じなかった) 男(目の前を車が通過する。 汗が噴き出る。 音が急速に戻ってくる) 男「はぁはぁ……い、今のは……」 後輩「……わかりません。 レミちゃんは見てない?」 後輩「私も気づいたら、先輩が前に飛び出していたんで……」 男「そうだよな。 あれだけ人がいたら、人ごみにまぎれることもできるもんな」 後輩「ただ……」 男「?」 後輩「急ぎ足であの場を去った人はいました。 けど、ほとんどの人が私たちに注目して立ち止まったんです。 でも、その人だけ足早に去っていったんです」 男「金髪か。 金髪なんて珍しくもないしな……」 後輩「ええ。 だから、参考にはならないと思います」 男「でも……」 『殺してやる』 男(あの電話。 もしオレの背中を押した人間と、あの電話の相手が同一人物だったら?) 男(だとしたら、オレの知り合いの可能性は十分あるんじゃないか?) 後輩「でも、よかったです。 この子がオレを助けてくれたんだよな) 後輩「火事場の馬鹿力っていうんでしょうか。 やっぱりそうだよな」 後輩「それに、今度もなにかあったら私が先輩を守りますから」 男「気持ちは嬉しいけど、それは男としてダメな気がするから遠慮しておく」 後輩「はあ……」 男「むしろオレがレミちゃんを守ってあげるって!」 後輩「……私、誰かに恨まれているんですか?」 男「それは……言われてみればそうなんだけど」 後輩「ふふっ……でも。 どうしような……って、しまった!」 後輩「どうしたんですか?」 男「ヤバイ! オレ、姉ちゃんに軽くランニングするって言って、朝に家を出たんだよ」 後輩「え? もうおやつの時間ですよ」 男「か、帰らなきゃ……!」 後輩「……帰っちゃうんですか?」 男(よく考えたらオレが呼び出したんだった。 いちおうなにが悪いかは、きちんと把握できているのね」 男「も、もちろんですよ?」 姉「いけないことがわかっているのなら、当然反省すべき点もわかっている。 そうね?」 男「そりゃあそうでしょ」 姉「じゃあなんでお客さんがいるのかなあ?」 後輩「す、すみません」 姉「大丈夫よ。 悪いのはあなたじゃないから。 我が家に人を連れてくるなんて……ま、まさか!」 男「?」 姉「こ、恋人とかだったりする?」 後輩「え?」 男「ち、ちがうよっ! 学校の後輩だよっ!」 姉「ふうん。 我が家にお客さんが来ること自体、珍しいから期待したのに……」 男「そういう気分だったんだよ……」 姉「そのわりに、顔が赤くなっているように見えるけど」 男「う、うるせー」 男(なにをオレは動揺してるんだ!? 落ち着け、レミちゃんは後輩。 先輩とは、春の体育祭で知り合って、それから仲良くしてもらってます」 男「……」 男(レミちゃんとオレの出会いは、変わってないのか。 まあ全部が全部変化してるわけじゃないわな) 男(実際オレの父さんと母さんは、離婚したままだしな) 姉「ふーん」 後輩「ど、どうしました?」 姉「私のカンなんだけど。 けど、実際は……) 男(兄ちゃんの言葉はアテにならない。 むしろそんなふうに言われると、かえってダメな気がする) 男(……って、なんでオレはこんなにイライラしてるんだ?) 姉「ちょっと汗臭いから、シャワー浴びてきたら?」 男「でもレミちゃんが来てるのに」 姉「大丈夫。 私とレミちゃんは、仲良くトークしてるから。 将来の結婚相手になるかもしれない子に、印象悪くなることは言わないから」 男「本当かよ」 姉「それよりさっさとお風呂に入ってきなさい」 男「わかったよ」 男(姉ちゃんはレミちゃんに興味津々みたいだった。 なんなら私がアシストしてあげるよ?」 後輩「えっと……」 男「あがったー。 なにやってんの?」 後輩「なっ……なんにもです。 き、気にしないでください」 男「そう言われるとかえって気になるな」 姉「見ちゃダメ。 ほんと、こういうところがダメなのよ」 男「なにがダメなんだよ?」 姉「そうやって聞く時点でダメなのよ。 今、あなたの分のお茶を入れてあげるから」 男「ありがと、姉ちゃん」 後輩「先輩とお姉さん、仲がいいんですね」 男「ん? まあ、そうなのかな?」 後輩「色々と先輩の話聞かせてもらっちゃいました……」 男「……全部は信じちゃダメだよ? 事実とはちがうことを言ってるかもしれないし」 姉「お姉ちゃんがホラを吹くとでも?」 男(実際、兄ちゃんのとんでもない嘘でオレがヒドイ目にあった経験は意外とあるんだよ) 姉「あなたのほうこそ、レミちゃんに聞いたよ。 オレがレミちゃんを助けたのは事実だった) 男(でも、あのときのことは完全には覚えてないけど、この子は助けた理由は……) 姉「この子ってほめられるとすぐ照れちゃうのよね」 男「……姉ちゃんは、いちいち余計なことを言いすぎなんだよ」 後輩「ふふっ……先輩、顔が本当に赤いですよ」 男(まあでも。 もっと笑ってあげて。 昔は人を笑わせるのが大好きだった子だから、嬉しいはずよ」 男「なんで知ってんだよ?」 姉「お姉ちゃんは、あなたのことをあなた以上に知ってるのよ?」 男「へいへい」 後輩「……よかったです」 男「ん?」 後輩「今日は、先輩の家に来れてよかったです」 姉「そう言ってもられると、私も嬉しいな。 これからも、この子と仲良くしてあげてね?」 後輩「もちろんです。 先輩、これからもよろしくおねがいしますね」 男(そう言って微笑むレミちゃんに、オレは一瞬見とれた。 本当に世話になりっぱなしで……」 後輩「私が好きでやってることだから、気にしないでください」 男「それでもさ。 なにかあったら言ってほしいんだ。 お礼がしたい」 後輩「……じゃあ、ひとつだけおねがいをしていいですか?」 男「なに?」 後輩「……」 男(隣のレミちゃんがオレを見上げる。 夕日を背後にした彼女の顔に影が浮かぶ) 男(少しだけ潤んだ瞳が、やけに印象的だった。 なにかを訴えようとしてる気がする) 後輩「やっぱり……なんにもです。 また今度にします」 男「そう?」 後輩「はい。 それと先輩のお姉さんとメールアドレスの交換しちゃいました」 男「姉ちゃんと? いつのまに……」 後輩「また先輩の話が聞けるかもしれませんね?」 男「勘弁してくれ……」 後輩「ふふっ……冗談です」 男「そうだ。 だったら少しでも引っかかったところから攻めるしかないと思うんだ」 男(オレが危うく車にひかれそうになった日。 オレとレミちゃんは学校に来ていた) 男(そして、学校にいるということは、当然制服である) 男(まさかまた、女子の制服の袖に手を通すことになるなんて……) 男「問題はあの人がいるかなんだよなあ」 後輩「むしろ夏休みですから、いない確率のほうが高いと思いますけど」 男「そうだよなあ。 ひとりじゃなくふたりだなんてね。 しかも、とってもカワイイ」 後輩「こ、こんにちは……」 本娘「どうしたの? ふたりとも心なしか顔が緊張してるように見えるわよ?」 男「実は先輩に聞きたいことがあってきたんです」 本娘「聞きたいこと。 ひょっとしてこの前の続きかしら?」 男「ちがいます」 本娘「あら? ちがうのかあ、ざーんねんっ」 男(どこか不思議な雰囲気をした先輩。 ただ、ひとつのことを言うのに、こんなに緊張するなんて) 男「昨日先輩はボクを突き飛ばしませんでしたか?」 後輩「……」 本娘「うーん。 話がまったく見えないんだけど、わかるように説明してくれない?」 男(オレは昨日起こった出来事を簡単に説明した) 男「そして、オレを突き飛ばしたと思われる人は金髪だった」 本娘「うんうん、なるほど。 証拠について聞いてくる人は、推理小説では十中八九犯人なんですよ!」 本娘「デタラメ言わないの」 男「うっ……」 本娘「でも私は、君が私を疑った理由がだいたいわかるけどね」 本娘「そんなことをする人間は、自分を恨んでいる人間。 つまり自分を知っている人間」 本娘「あるいは、自分が知っている人間。 そして君の知っている人間で唯一の金髪が私だ った」 本娘「こんなところじゃない?」 男「いやあ、お見事。 やっぱりいくらなんでも、根拠薄弱すぎると思います」 本娘「そうよねえ。 いくらなんでも、それで犯罪者扱いされたくないなあ」 男「……ですよねえ」 本娘「もし私を犯人にしたいなら、まずはもっと証拠を探さないとね」 男(うう、密かにこれは名推理なんじゃないかと思ってたとは言えない) 後輩「……先輩は夏休みも図書室にいるんですか?」 本娘「うん。 だって図書室って冷房ついてるし。 私の部屋、冷房がないから助かるのよね」 後輩「でも先輩以外は、誰もいませんね」 本娘「だからいいんじゃない。 ひとりでくつろげるって最高よ」 後輩「はあ……」 本娘「ああでも、もちろん自由に使っていいわよ。 たとえばこういうこととか?」 後輩「ひゃっ!?」 男「!?」 男(見事に迷推理をかまして、意気消沈していたオレの目の前でなにかすごいことが起きた) 男(とてもオレでは描写できないような、なんかそういうアレだ) 本娘「やぁっぱり。 でもそんなにいやがるなら……」 男「え?」 男(気づいたら先輩が目の前にいた。 次の瞬間、オレは先輩に抱きしめられていた) 男「!?!?!?」 後輩「!!」 本娘「君もウブな反応するわよねえ。 んふっ……カワイイね」 男「ひっ!?」 男(先輩の手が首に触れた。 冷たい感触が首を通して、背骨を突き抜ける。 ボクにはそんな記憶はないんです」 本娘「ふうん。 そういえば、そんなことも言ってたわね。 どう思う?」 後輩「わ、私に言ってるんですか?」 本娘「もちろん」 後輩「……私は先輩を信じてます」 本娘「だって。 よかったわね。 君が色んな生徒をたらしこんでるっていうのは」 男「そんなこと言われても……」 本娘「魔法のように人間を惚れさせるなんてね。 実は君、魔法使いだったりしてね」 男「な、なに言ってるんですか?」 本娘「ふうん。 ちなみにあなたは惚れてるの?」 後輩「な、なにを急に言い出すんですか!? 急に変なこと言わないでください」 本娘「顔赤いわよ。 無きにしも非ず、かもね」 男「え?」 本娘「なあんちゃって。 安心してね」 男(先輩がオレをまっすぐ見据える) 本娘「私は君に、絶対惚れたりしないから」 男(宣言というよりは、単なる事実を述べているだけのような軽い口調) 男「そうですか。 べつにかまいませんよ」 本娘「かまわないんだあ。 私みたいな美人にこんなこと言われて、悔しくないの?」 男「べ、べつに。 ぜんっぜん気にならないですね」 後輩「……」 男(レミちゃんの視線が痛い。 居心地が悪い。 先輩が、ドアに近づいていく) 本娘「あら? いなくなっちゃった。 新しい来訪者かと思って期待してたのに」 男「先輩の存在に気づいて、逃げ出しちゃったんじゃないですか?」 本娘「失礼ね。 これでも私はとっても親切なんだから」 男(この人はオレを突き飛ばした犯人じゃない。 本当にそうなのかな?) 男(なにかないのか? 証拠のようなもの) 「すみません、失礼します」 本娘「どうぞどうぞ。 ところでその大きな荷物はなにかしら?」 男「あっ……」 男(ドアから入ってきた女子には見覚えがあった。 話がよく見えないけど、ふたりは知り合いってこと?」 幼馴染「ちがいます。 こんな変な人、私は知りません」 後輩「先輩、この人になにかしたんですか?」 男「べつに変なことはしてない。 ただ……」 幼馴染「とにかく。 この荷物をここに置かせてもらいますね。 そのはずなんです」 本娘「会話が噛み合ってないように見えたけど。 例の話と関係があるのかしら?」 男「ボクとアイツは、ボクの記憶が正解なら幼馴染のはずです」 本娘「ところがどっこい。 今はそうではないってわけね」 男「見てのとおり。 幼馴染どころか、知り合いですらないんです」 後輩「今の先輩の幼馴染にあたる人は、別人になっているんですよね?」 男「うん」 本娘「……ひとつ聞いてもいい?」 男「なんですか?」 本娘「その幼馴染の子と、今みたいな関係になっているのはショック?」 男「当然ですよ。 今からでも、仲良くなろうと思えばなれるんじゃないですか?」 男「……」 本娘「あの子、重たそうな荷物を持ってたから手伝ってあげたら? 少しは印象よくなるんじゃない?」 男「でも……」 本娘「いいじゃない。 君はスキャンダルにまみれてるんだし、印象操作の一環だと思えば」 男「印象操作って言うと、メチャクチャ印象悪いですよ」 本娘「いいから。 さっさと手伝いに行く。 それにこれは私が頼まれた仕事だから」 男「でもこれって、文化祭実行委員の仕事だろ? お前って実行委員なの?」 幼馴染「ちがうけど。 人手が足りないっていうから、手伝っただけ」 男「じゃあオレも、同じ理由で手伝う。 それでいいでしょ?」 幼馴染「頼まれたのは私だから。 ジャマしないで。 ていうかどいて」 男「……」 男(そう言って見るからに重たそうな荷物を運ぼうとする。 なっ?」 幼馴染「なにが『なっ?』よ。 だいたい馴れ馴れしいってば」 男(基本強気なヤツだとは知っていたけど、ここまで突っぱねられるとは思っていなかった) 男(余計にオレの印象が悪くなっている気がする。 でも、引き下がるのもイヤだった) 幼馴染「いいからどいて……きゃっ!」 男(思いっきり進路妨害するオレを避けようとしたのが、祟ったらしい。 よろめいて転びそうになる) 男(オレはとっさに受け止めようとした。 背中の痛みと、胴体の柔らかい感触に挟まれたオレは思わず固まった) 男(視界いっぱいに見知った女の顔が……少し動いたら、そのままキスできそうだった) 男(痛みのせいか少しだけ目尻に涙が浮かんだ瞳。 その瞳に映る自分の顔が視認できる) 男(鼻息がかかる距離なのに、息がかからないのは、コイツが息を文字通りのんでいるからだ) 幼馴染「ご、ごめん!」 男(目にも止まらぬ速さで離れる。 そっちこそケガしてない?」 幼馴染「私は……その……受け止めてくれたから……」 男「そっか」 幼馴染「ちょっとこけそうになったぐらいで、あんなふうに受け止めなくてもいいのに」 男「まあね」 幼馴染「……はい」 男「なにこの手?」 幼馴染「いちいち聞かないで。 ほら、立って」 男「……ありがと」 男(オレは本当に久々にコイツの手を握った。 ……痛い」 男「ごめん。 ていうか、本当に悪かった」 幼馴染「なにが?」 男「オレがジャマしなけりゃ、お互いにこけることもなかったもんな」 幼馴染「そうだね」 男「……ごめん」 幼馴染「けれど、私が素直にあなたの言うことを聞いてればよかった話だから」 男「たしかにな。 言われてみれば、そうだな」 幼馴染「態度コロッと変えすぎ」 男「そんなことはないよ?」 幼馴染「そっ。 ところで手伝ってくれるんでしょ?」 男「そっちが手伝わせてくれたらな」 幼馴染「じゃあお願いします。 オレは……」 幼馴染「なに?」 男「あー、なんていうか、まあとりあえず不審者じゃない」 幼馴染「人のことを勝手に幼馴染扱いする人のことを不審者って言っちゃダメなの?」 男「もっといい呼び方があるだろ?」 幼馴染「ない。 だいたい私の個人情報まで知ってるし。 コワすぎ」 男「たしかにそうだな」 幼馴染「なに納得してんの。 オレは言いたいことも言えないのか) 男(オレはお前との最初の出会いだって覚えている。 それなのに……) 幼馴染「まあ話せないんなら、それでもいいよ。 悪い人ってわけじゃなさそうだし」 男(そう言ってもらっても、全然心は晴れなかった) 男「なあ」 幼馴染「なに?」 男「逆にお前はオレのこと、なにか知らない?」 幼馴染「どういう意味? たぶん顔は知らないよ。 私、けっこう人の顔覚えるの得意だし」 男「……そうだったな」 幼馴染「え?」 男「なにも言ってない。 お前って口癖みたいなのってある?」 幼馴染「自覚はないけど、周りからは『何事も前向きに』ってよく言うって言われる」 男「それだけ?」 幼馴染「どういうこと? ほかにはなにもないと思うけど。 ていうかひとつって言ったよね?」 男「細かいことはいいから。 本当にそれだけ?」 幼馴染「口癖なんて、いちいち覚えてないよ。 ずっとレミちゃんとお話できたしね」 男「レミちゃんも、待たせちゃってごめん」 後輩「いえ。 私も先輩と色々お話できて、楽しかったですし」 本娘「レミちゃんはまた来てくれていいわよ? 今日ですっかり気に入っちゃった」 男「あれ? ボクは?」 本娘「用がないなら来なくていいわよ?」 男「そんな……」 本娘「冗談。 次こそは名推理を期待しているわよ?」 男「あはは……ボク、頭悪いんで推理にはあまり期待しないでください」 本娘「それと、例の幼馴染の子についてはもういいの?」 男「……はい。 それがどのような意味かはわからないけど。 なんなら私の胸で泣いてく?」 男「え? い、いいんですか?」 本娘「ただ私の胸で泣くと、死んじゃうかもね。 窒息して」 後輩「……」 男(オレは隣のレミちゃんの視線を敏感に感じとった) 男「……やっぱりいいです。 窒息したくないですし」 本娘「あらら、残念。 じゃあ代わりにほかの子の胸で泣かせてもらったら」 男「泣きませんって! ボクは……」 男(男の中の男なんだから、と言おうとしてやめた。 通じないことを言ってもしょうがない) 男「それじゃあ失礼します。 またオジャマするかもしれないです」 本娘「いつでもどうぞ。 結局なんの手がかりも見つからなかったし」 後輩「そうですね。 名推理を披露って感じにはなりませんでしたね」 男「おかしいなあ」 後輩「おかしかったのは先輩の推理ですよ……って、すみません」 男「いいよ、実際にそのとおりだし。 それに……」 後輩「?」 男「ちょっとずつだけど、オレたちも打ち解けてる気がするし」 後輩「仲良くなれてるってことですよね?」 男「うん」 後輩「……んっ」 男(レミちゃんは、下唇を噛んだ。 多少は話せたけど、それだけ」 後輩「やっぱり本当のことは、話さなかったってことですか?」 男「うん。 それに、本当のことを話しても通じないよ。 アイツはオレの知ってるアイツじゃなかったし」 後輩「……」 男「オレとアイツって幼稚園のころからの付き合いなんだ」 後輩「けっこう長い付き合いなんですね」 男「うん。 アイツと初めて会ったときのこと」 男「オレと友達がオモチャの取り合いでケンカしてさ。 ケンカに負けてさ。 オレ、泣いちゃったんだ」 男「そのときなんだ。 アイツと初めて話したの」 後輩「ひょっとして先輩の代わりに、そのケンカの相手を怒ったとか、ですか?」 男「ううん、逆」 後輩「逆?」 男「泣いてるオレに向かって、アイツ怒ったんだよ」 男「『男らしくない』って。 さらに、そのあと男なら泣くなって」 後輩「はあ……オトコ、ですか」 男「そう。 でも、もう終わりだ」 後輩「おわり?」 男「いつまでもアイツに囚われてるなんて、オレらしくない」 後輩「先輩らしくない、ですか」 男「そう。 オレは生まれ変わるんだ。 アイツよりも好きな人見つけて、そんで……」 男(歩いていた足がなぜか止まった。 声が詰まる。 視界が揺れて、少しだけ景色がゆがむ) 後輩「先輩?」 男「ははは……情けないわ、オレ。 言ったそばから……っ」 男(オレは目尻から溢れそうになる涙をぬぐった。 なんかやっぱりおかしいな。 うん」 後輩「……」 男(ジッとオレを見上げるレミちゃんの表情がようやく鮮明になってくる) 後輩「先輩」 男「なに?」 後輩「えっと……ここじゃあ、できませんけど……あの……私の、胸で泣きますか?」 男「…………」 男(顔を真っ赤にしてなにを言っているんだろう、この子は) 後輩「ち、窒息させてみせます。 すぐに答えが出た。 レミちゃんはオレを笑わせようとしたんだ) 男(彼女なりにオレを笑わせようとしたんだ。 さっきの先輩のくだりを思い出して、そう言ったんだ) 男「……それには及ばない。 ていうか涙の前に息が止まるのは困る」 後輩「そうですよね……」 男「それにオレが窒息するには、先輩ぐらいデカくなきゃ無理だ」 後輩「ど、どういう意味ですか!? というかそれって……」 男「うん。 残念ながらそういうことだ」 後輩「ひ、ひどいです……」 男「ごめんごめん。 それに泣きそうになったら、レミちゃんの胸の中で泣けるってことが判明したしね」 後輩「むぅ」 男(レミちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった) 男「まあ安心してよ。 今後、オレは泣くことなんてないからさ」 後輩「本当ですか? また泣いたりしませんか?」 男「……そう言われると自信なくなるけど」 後輩「今度先輩が泣いても、私は胸貸しませんから」 男「ええー。 すごい元気出たよ」 後輩「……」 男「どうした? 急に黙りこくちゃって」 後輩「……先輩は来週の月曜日、時間空いてますか?」 男「うん。 間違いなく暇だと思うよ。 もし用事があるなら付き合うよ」 後輩「用事とはちがうんですけど……」 男(オレを見つめるレミちゃんの頬が、また赤くなる) 男(でもまっすぐオレを見上げる目には、はっきりと強い意志が宿っていた) 男(レミちゃんが口を開いた。 まるで福笑いみたい」 男「そんなすごい顔してる!?」 姉「うん、あとで鏡で見てみたら?」 男「はいはい。 走るときにウォークマンつけるのはやめたら? 危ないよ」 男「走るときしか使わないんだよ?」 姉「なんで『ウォークマン』なのに、走るときに使うのよ」 男「知らないよ。 ていうか、関係ないし」 姉「まったく。 お姉ちゃんの言うことは、素直に聞いたほうがいいのに」 男「まあ、しばらくはそれ聞くことないから」 姉「あっ。 あともうひとつ」 男「まだなんかあるの?」 姉「うん。 実はすごく気になることがあってね。 そういうことだよ、なんで気づかなかったんだろ」 姉「こ、壊れた? 大丈夫? お姉ちゃんが介抱したほうがいい?」 男「壊れなんかいないよ。 きちんと覚えてるよ」 男「それについて否定しに来ました」 本娘「また迷推理を披露してくれるのかしら?」 男「いいえ。 今度は名推理のはずですよ」 本娘「ふうん。 wQ 本娘「……」 男「これが、ボクがおかしくなったわけではないっていう証明です」 本娘「いきなりスカートを下げて、そんなことを言われてもね」 男「問題はスカートじゃありませんよ」 本娘「そうみたいね。 変わった下着ね」 男「おそらく先輩は、こんなパンツを見たことは一度もないですよね」 本娘「……もしかして自分で作ったの?」 男「ちがいます。 これは先輩に説明した『先輩たちのような人たとよく似た人間』が履いてるパンツなんですよ」 本娘「へえ」 男「あの……そんなにジッと見られると恥ずかしいんですけど」 本娘「どうして?」 男(先輩がかがみこんで、オレのパンツに視線をあわせてくる。 wQ 男(先輩がニヤリと唇を釣り上げる。 この人ってこういう表情がやたら似合うな) 男(オレはスカートをあげた。 この先輩に股間を見つめられ続けるのは、恥ずかしい) 男「ボクもそのよく似た人間の『男』っていうヤツなんです」 本娘「……へえ。 最初にそれを言ってくれればよかったのに」 男「たしかに。 最初にそれを言っておけばよかったですね」 本娘「ところで君って具体的に、どこがちがうの? ちがいがよくわからないけど」 男「そうですね。 wQ 本娘「それとも見せられない理由でもあるの? すっごく気になるんだけどなあ」 男(や、やべえ。 そこまで言われるって考えてなかった) 本娘「でもまあ、下半身丸裸になるっていうのはなかなか恥ずかしいもんね。 許してあげる」 男「ほっ……ありがとうございます」 本娘「それで? そのパンツは結局なにを証明してくれるの?」 男「先輩が知らないように、このパンツはおそらく今はないものです」 本娘「続けて」 男「でもボクが知っている世界では、あって当然のものだったんです」 男「このことから考えられるなら、少なくともボクが狂ったっていうのはないんじゃないですか?」 本娘「なるほどね。 じゃあ君は世界が狂ったとでも言いたいのかしら?」 男「わかりません。 そうですよね」 本娘「しかも君以外に、今の状況がおかしいと思っている人間はいないんでしょ?」 男「はい。 たぶんいないはずです」 本娘「……そうね。 たとえば世界が変わった前日はなにしたか、とか覚えてない?」 男「夜に課題やってて……そっから先は覚えてないです」 本娘「なにか特別なことをしたとかって記憶もないの?」 男「ないです。 学校に行って、勉強して……って感じです。 wQ 本娘「なにか特別なことをして、それがきっかけで世界が変わったとかってありがちな気がするんだけどね」 男「……先輩が前に言ってた『パラレルワールド』とかって説はどうですか?」 本娘「君だけが、べつの世界に行っちゃったってこと?」 男「はい。 それならボクだけがほかの人とちがうのも、納得がいきますよね」 本娘「なるほどね。 でも、そうだとすると更に色んな疑問が湧いてくるわよ?」 男「疑問?」 本娘「どうやって君がパラレルワールドに来たとか。 どうして君だったのか、とか」 男「結局謎だらけのままなんですよね……」 本娘「それに、結局謎が解けても根本的な問題は解決しないしね」 男「どういうことですか?」 本娘「だって謎が解けても、君が知っていた世界に戻す手段を見つけないと。 結局意味ないのよ?」 男(先輩の言うとおりだった。 wQ 本娘「そもそも戻る意味ってあるの?」 男「……」 男(そういえば、オレは一度でも元の状態に戻れと本気で思ったことがあるのか?) 男(実は今の状況のほうがいいんじゃないか?) 本娘「君って、もともとモテモテだったの?」 男「いや全然。 普通にフラれた経験もありますし。 wQ 男「どうなんだろ……」 男(たしかにこの世界だったら、周りは女しかいない。 しかもオレはなぜかモテモテ) 男(周りの環境だって、変化はあってもそこまで悪くはなっていない) 男(一部の人間が別人になっているけど) 男(それだって悪いことかって言われたら、そうじゃないのかもしれない) 本娘「一億円でも当たったぐらいの気持ちで、受け入れるっていうのはダメ?」 男「正直、わかりません。 wQ 男「周りの環境が変わったら、おのずと自分も変わってしまうような気がして……変ですかね」 本娘「さあ? 私に聞かれてもわからないわよ?」 男「ボクは、自分の気持ちがよくわからないです」 男(でも、帰る手段が見つかったら。 ちょっと本を探そうとしたら、先輩が来て……」 本娘「どっかの誰かさんが急に、スカートを下ろし出したりするからビックリしちゃったんでしょ?」 男「み、見てた?」 後輩「は、はい。 いったいなにをしでかすのかと思って……出るに出られなくなりました」 男「い、いやアレは……ちょっと先輩を驚かせようと思っただけなんだよ?」 本娘「なんだ。 てっきり私にそのパンツを見せつけたいのかと思った」 男「そんなわけないです! それに僕のお気に入りのパンツは、これじゃないんです!?」 本娘「どうでもいいかな。 ボクが嘘をつくわけないでしょ?」 後輩「先輩?」 本娘「君の人間関係についてわかることがないかって思って、実はあるものを調べたの」 男「なにを調べたんですか?」 本娘「格好つけて調べるなんて言ったけど、春に撮るクラス写真を見せてもらっただけ」 男「……」 本娘「それを見たら、すぐに疑問が生まれたわ」 後輩「なにかその写真に写ってたんですか?」 本娘「ええ。 この子はどうなの?」 男「……」 本娘「なんで黙るの? もしかして、すでに話を聞いてるの? だったらごめんね」 後輩「先輩。 その人については、触れてませんでしたけど」 男「……すごく情けない理由で、わざと嘘をついたんです」 本娘「情けない理由?」 男「お嬢につい最近、告白されたんです。 ボク……」 本娘「そうね。 ただ、次そんな情けないことを言ったら許さないからね」 男「はい……!」 本娘「あと、この子にも謝らないとね」 後輩「私、ですか?」 男「レミちゃん」 後輩「は、はい。 どうして先輩が私に謝る必要があるんですか?」 男「ずっと協力してくれてるレミちゃんには、きちんと言っておくべきだった。 私もまあまあモテるけど、失恋の経験もなかなかなの」 男「へえ。 なんだか意外ですね」 本娘「人間、色々あるものなのよ。 腕を握る力が強すぎる) 女「どうせキミのことだから、デートのプランも練ってないんでしょ?」 男「で、デート!?」 女「ちがうの……?」 男「……まあ、そうなのかもね」 女「というか、今はそんなことは重要じゃないの! 結局制服で行動するハメになっちゃったし」 男「ごめん」 女「そう思うなら、なにか奢ってよ……」 男(不意に彼女が立ち止まる。 語尾が弱々しくなる。 約束をすっぽかしたのはオレだしな」 女「ほんと!?」 男「うん。 まあそんなに高いものは奢れないけど」 女「ううんっ。 キミが買ってくれるならチロルチョコでも、うまい棒でも、なんでもいいよっ」 男(いいのかそれで?) 男(……と、思ったけど天真爛漫な笑顔を見ていたら、そんな疑問はどうでもよくなった) 女「私が行きたいって言った場所のこと覚えてる?」 男「アレでしょ? アリスカフェってとこ」 女「覚えてくれたんだね」 男(そう言ってアカリは、オレの腕に自分のそれを絡めてきた) 男(いっきに体温が上昇した。 ホントに名前のとおりに、店員さんがあのキャラクターの格好してるんだな」 女「すごくかわいいよね。 ……って、さっきから店員さんの足ばかり見てない?」 男「そ、そんなことないよ」 女「ふーん、あっそ」 男(しかし、ここまで喜怒哀楽がはっきりしたヤツだったんだな。 思ってることがそのまま顔に垂れ流しになってるみたいだ) 男「こんな店なのに、おばさんひとりで来てる人とかいるんだね」 女「熱心なファンの人とかが、来るんだよ」 男「すごいな。 オレたちって幼馴染なんだよな?」 女「今さらすぎるでしょ」 男「まあそうなんだけど」 女「幼稚園のころからの付き合いでしょ?」 男「……」 女「昔はよく一緒にお風呂入ったりとかしたよね?」 男「……そうだな。 けっこう時間かかるでしょ?」 女「三十分もあれば終わるから大丈夫だよっ」 男「そんなにこれって違和感ある?」 女「うん。 だって明らかに安物だし」 男「ウィッグねえ」 女「前来たときは、もうちょっと積極的に選んでたのに」 男「前は前。 せっかくいいものを選んであげようと思ったのに」 男「!」 男(唇をとがらせるアカリを前に、困っていたオレの首筋に。 誰かの視線が突き刺さった) 男(誰だ?) 男(……レミちゃん!?) 男(振り返ったオレの視線の先に広がる人ごみ。 そこにまぎれてレミちゃんがオレを見ていた) 男(表情ははっきりとは、見えない。 ちょっと遠すぎる。 話題を変えることにした) 男「……キミって世話好きだよな」 女「どうしたの急に?」 男「ただそう思っただけだよ」 女「そんなことないと思うけどな。 べつにみんなに親切にしてるわけじゃないし」 男(オレの知ってるこの子は、誰にでも優しく接するタイプだった。 自覚がないのかも) 女「でもそうだね。 ときどき周りから言われるかも。 でもオレは彼女の知っているオレじゃない) 男(お嬢とのことを思い出して、オレは無意識に話題を変えようとした) 男(けれど、先輩に言われたこと。 レミちゃんに謝ったことを思い出した) 男(次の瞬間。 オレはなぜか自分でも予想外のことを口走っていた) 男「なんで人って人を好きになるんだろ」 女「……?」 男「単純に気になったんだ。 なんか人って大変だよな」 女「人が人を好きになる理由なんて、あたしはそんなに重要じゃないと思うよ」 男「なんで?」 女「だって、人の気持ちってすぐに変わるでしょ?」 女「ほんの些細なことで変化しちゃうんだよ?」 女「昨日は嫌いだった人が、今日には好きになってるのが人間でしょ?」 女「だから人が人を好きになるのに、完璧な理由なんてないと思う」 男「でも、だったらどうして人は結婚するんだよ、って話にならない?」 男「……まあ、オレの親も離婚してるもんな。 それこそコロッと感情が変わったからなのかも」 女「うーん。 その人のことを好きであり続ける強い意思……みたいな」 女「大げさかもしれないけどね。 そういう生き物。 ……ていうか、なんだか恥ずかしいこと言っちゃったね」 男「聞いたのはオレだし、こんな質問に真剣に答えてくれたのは……その、嬉しかった?」 女「なんで疑問形なの?」 男「深い理由はない。 それより次のとこへ行こう」 女「どうしたの? なんだか顔が赤いけど?」 男(思い出したんだ。 そんなに時間かからないし、ちょっとぐらいいでしょ」 男(なにを揉めているのかと言えば、プリクラを撮るか撮らないかの話だった) 男(べつに冬場だったら構わない。 ていうか、かわいい女子とプリクラ撮れるのは嬉しい) 男(でもオレは暑がり。 その上あの機械の中は蒸し暑いから嫌いなんだ) 女「……そんなにイヤ?」 男(上目づかいで睨むという、器用なことをやるアカリ。 これは卑怯だ) 男「わかったよ。 髪でも巻いてみる?」 男「いやいや! そんなのはしなくていいっ!」 女「なんだ。 プリクラは変顔してなんぼだろ」 女「いいから。 次はもうちょっと普通の顔してよ」 男「ええー」 女「ええー、じゃないのっ」 男(液晶をいじったあと、アカリがオレを振り返った) 男「……前向かないと、撮られるよ」 女「……」 男(オレの言葉に対してなにも言わない。 ふたりだけ。 触れ合う制服と制服。 彼女の掌はわずかに汗ばんでいる) 男(唇が近づいてくれる。 オレはなにもできなかった。 あと少し。 あはは、あたしったらなにやってるんだろうね」 男「とりあえず出よ。 ここは暑い」 女「うん……」 男「ふぅ。 ホント、中と外との温度差が半端ないな」 女「まだ終わってないよ。 ほら、ペイントしよ」 男(さっきよりは控えめに、オレの袖をつかむ) 男(オレたちは適当に落書きをして、再び機械を前にした) 男(アカリが液晶から画像を選ぶ。 さっきのキスの未遂画像もきちんと選択している) 女「ほら、アドレス打ちこんで」 男「オレ、自分のメアド覚えてないんだけど」 女「もう。 昔から物覚えが悪いんだから。 ここうるさいし」 男「そうか。 ああ、あとひとつ。 オレのスマホ、今アプリ入ってないんだ」 女「どういうこと?」 男「故障したのかわからないけど、なぜか中身のほとんどが消えてたんだ」 女「……それで?」 男「だからラインも入ってないんだ。 実は正解にたどり着くためのヒントは、ほとんどそろってる?) 男(そうだ。 そもそも図書室のくだりでオレは聞くべきだったんだ) 男「……」 女「ねえ、あたしの話聞いてる?」 男「……」 女「はぁ~……んっ」 男「いっ!? なんで耳を引っ張るんだよ!?」 女「そっちがあたしの話を聞いてないからでしょ」 男「ごめん。 この状況ではどちらにしよう、考えはまとまらない) 男「ごめん。 たいしたことじゃないんだ。 次はどこへ行く?」 女「……」 男「アカリ?」 女「さっき話そうとしたこと、覚えてる?」 男「言いかけてやめたヤツでしょ。 なにを言おうとしたの?」 女「……」 男(下唇を噛んで、頬を赤くしている。 それ以上にこの場から逃げ出したいと思った) 男(だけどこの問題は、オレの問題だ) 男(お嬢の顔が浮かぶ。 オレは本当のことを言いたくて仕方がなかった) 男(でも、この状況で言ってもタチの悪い冗談にしかならない) 男(下手をすれば、アカリの誠意を無下にすることになる。 お嬢のときみたいになってはいけない。 歯を食いしばる) 女「ひとつ聞いていい?」 男「なに?」 女「私のこと好き?」 男「……嫌いだったら、こうして一緒にいない」 女「でもその夏祭りに行く子のほうが、私よりも好きなんだよね?」 男(ここが最後の選択肢。 この瞬間なら、まだ取り返しがつくかもしれない。 でも) 男「うん。 そんなオレにメールが来た) 男(レミちゃんだった。 頭の中はグチャグチャだった。 最初は図書室にいたんですけどね」 本娘「メールを送る十分ぐらい前にここに来たの」 男「……レミちゃんのメール打ったの、先輩ですよね?」 本娘「だってねえ。 この子ったら、メールなんて送らなくていいって言って聞かないから」 後輩「その……ジャマしちゃ申し訳ないと思って……」 男「ごめん、わざわざ気をつかってくれてありがと」 後輩「べ、べつにそんなんじゃありません」 本娘「ていうか、こんなに可愛い後輩がいるのに、ほかの子に浮気するなんてね」 男「そのことなんですけど。 もうあの子とは、なにもありません」 本娘「よくわからないんだけど。 まあ根掘り葉掘り聞かないほうがいいみたいね」 男「できれば、そうしてほしいです」 男(どうしていいかわからずに戸惑っているレミちゃんの正面にオレは座った) 男「一時間ぐらい前も、ずっと図書室にいたんだよね?」 男(レミちゃんと先輩が顔を見合わせる。 ふたりとも目を丸くしている) 後輩「はい。 今言ったとおり、さっきまで図書室にいたんで」 本娘「ひょっとして、キミが出ていく直前の私たちの話が聞こえてた?」 男「……いえ、それとは関係ないです。 さすがにもう胃に、余裕がないや」 後輩「先輩」 男「ん?」 後輩「……夏祭りのことなんですけど」 男「どうした?」 後輩「本当に私とでよかったんですか?」 男「うん」 後輩「……ありがとうございます。 私と一緒に行ってくれるって約束してくれて」 男(今夜の三日月を思わす控えめな微笑。 でも、どこかかげりがあるように見える) 男「ふたりっきりでお祭りに行くとか初めてなんだ、オレ」 後輩「私も、初めてです」 男「当日はまかせておいてよ。 ……それともうひとつ」 後輩「夏祭りが終わったら、話したいことがあるんです」 男「……今じゃ、ダメなの?」 後輩「できれば、お祭りが終わるまで待ってほしいです」 男「わかった。 待つよ」 後輩「ありがとうございます」 男(もっと色々と話したかった。 けど、言いたい言葉が我先にと喉から出ようとする) 男(そのせいでかえって、喉の奥でつっかえてしまう) 後輩「当日、晴れるといいな……」 男「きっと晴れるよ」 男(そう言うと彼女はまた笑った。 この汗は、夏の夜の蒸し暑さだけが原因じゃない) 男(インターホンを押す指先が少しだけ震えた) 男「ごめんくださーい」 『どちらさまでしょうか?』 男(オレは自分の名前と用件を言って、玄関の前で待った。 しばらくするとお嬢が出てきた) お嬢「こんばんは」 男「夜遅くにごめんな」 お嬢「どうしたの、こんな時間に?」 男「実は聞きたいことがあって来たんだ」 お嬢「なんだ。 オレは告白失敗の気まずさをすでに、アイツで経験している) 男(できればお嬢とは、そんなふうになりたくないと思った。 ただ、それは難しい) 男(だけど、お嬢がそうしようとするのだったら、オレはそれに答えなければいけない) 男(そんな気がした) 男「悪いけど、ちがうんだなっ」 お嬢「残念だな。 浴衣もちゃんと準備してたのになあ」 男「それはオレも残念。 そうしたらオレも見れるし」 お嬢「ただでさえ私って変な誤解されてるのに、余計におかしな人に思われちゃう」 男「いいじゃん。 変人キャラで売っていこうぜ!」 お嬢「夏休み明けにイメチェンって、普通にありそうだね」 男「うん、ありがちありがち」 お嬢「……なんだか、今日の私たちの会話っておかしいね」 男「違和感バリバリだよな、きっと。 でも気にすんなよ」 お嬢「できるだけ気にしないでがんばる」 男(できてしまった溝を無理やり埋めるような会話。 お嬢がオレの質問に答える) 男(淡い、霧のような可能性が、はっきりとした形になっていくのを感じた) お嬢「どういうことなの? てっきり私は故障かそれに近いものだと思ってたけど」 男「そうじゃないかもしれない。 さらにオレは言葉を続けた) 男「結局それってなんだったんだ?」 お嬢「なにを言ってるの? さすがにあのことは忘れないでしょ?」 男(お嬢がオレを指差す。 そして、予想外のことを言われた。 予想外過ぎて頭が真っ白になる) 男「マジか」 お嬢「呆然としてるけど。 どうしてあなたが、今さら驚くの?」 男「あ、いや……ちがうんだ。 驚いたわけじゃないんだ。 ただちょっとね……」 お嬢「そうなの? ちなみに私以外にも、そのことを知ってる人はいるよね?」 男(お嬢の質問について少し考えてみる。 聞く勇気はなかった) 男(それからオレはもうひとつ、頼みごとをしてた。 彼女は快く引き受けてくれた) お嬢「こんなところでいい?」 男「うん。 おかげで色々とわかったよ」 お嬢「私は逆に余計にわからなくなったけどね、あなたって人が」 男「そうかな?」 お嬢「そうだよ。 でも、あなたの力になれてよかった」 男「……ありがと」 お嬢「お礼なんていらない。 私たち、友達でしょ?」 男(お嬢がニッコリと笑う。 屈託のない笑み。 ある可能性が確信に変わっていく) 男(もっともその一方で、自分の推測に矛盾のようなものが出ていることにもオレは気づいていた) 男(そしてその矛盾が示す、べつの可能性が見えてくる) 男(次に向かったのは、ヤマダの家だった。 インターホンを押し、ヤマダを呼び出す) 友「こんな時間に私の家に来るなんて、珍しいじゃん」 男「メシ食ってたりした?」 友「そんなことないよ。 また予想外だ) 男(オレの勘違い? いや、ちがう。 そうじゃない。 これが今回の答えなんだ) 友「急に黙るなよ。 なんか私がおかしなことを言ったみたいな空気になってんじゃん」 男「……いや、お前はきっとおかしくないよ」 友「そうだね。 アンタのほうがなんか雰囲気おかしくなってるよ?」 男(鼓動がはやくなっている。 頭が痛くなる。 なぜ皆ことごとくそのイベントのことを口にするんだろ) 男(だけどよく考えれば、夏休みに祭りに行くことなんて珍しいことでもなんでもない) 男(自分が女の子からの誘いを断るかどうかで、悩むときが来るなんて夢にも思わなかった) 男「夏祭りのこと?」 友「……うん。 アンタが暇だって言うなら……一緒に行ってもいいかなって」 男(『祭りになんて、行きたくないから行かない』) 男(そういうふうに言えば、案外無難にこの状況を乗り越えられるかもと悪魔が耳元でささやく) 男(だけど、オレはもう選択してしまっているんだ。 でも、お前とは行かない」 男(彼女の表情が困惑に揺れる。 でもどこか、悟ったようにも見える) 友「ほかの人と行くってことでしょ?」 男「うん……」 友「はっ……私とあんなことしたくせに。 思いっきり頬をはたかれた) 男(怒りと悲しみでいっぱいになったヤマダの形相) 男(ヤマダはなにも言わずに、家へ入っていってしまった) 男「……痛い」 男(今思えば、お嬢は優しすぎたんだ。 これはもう終わったこと」 姉「ふうん。 じゃあなにで悩んでるの? お姉ちゃんに話してみなさいな」 男「上手く説明できないよ、たぶん」 姉「いいから言ってみてよ。 言葉にしてみるだけでもけっこうちがうと思うよ」 男「なんていうのかな。 あることに対する答えを見つけたんだ」 姉「うんうん。 道理に合わなくても、自分のしたいようにすれば」 姉「もうあなたも、寄り道して怒られる年でもないでしょ?」 男「……姉ちゃん、オレが帰り遅いと怒るじゃん」 姉「それとこれとは、全く話がちがうでしょ」 姉「いいじゃない? それだけ悩むほどにしたいことなら、やればいい」 姉「それぐらいのワガママは、神様も許してくれると思うよ。 少なくともお姉ちゃんは許す」 男「……なんかすごいな、姉ちゃん」 姉「当然。 あの子の控えめな笑顔が浮かんできた) 男「そうだな。 うん、少しスッキリした」 姉「そうみたいね。 顔つきが少し変わったね」 男「……姉ちゃんの、おかげ……だよ」 姉「照れない照れない。 言わなくてもわかってるから」 男「……照れてない」 男(それまで真剣な表情をしていた姉ちゃんが、ニヤリとした) 姉「ちなみに誰と行くの、夏祭り」 男「さっき聞かないって言ったじゃん!」 姉「いいじゃない。 ちょっと運動して血の巡りをよくしてくる。 いつぶりだろ、こういう感覚) 男(この数日間、胸に溜まっていたしこりのようなものも、今はまるで感じなかった) 男(しかし、普段着なのはオレぐらいだった。 みんな浴衣を着ている。 明らかに浮いている) 男(ふと背後から視線、というか人の気配のようなものを感じて振り返った) 後輩「あっ……」 男「……」 男(レミちゃんが背後にいた。 なぜか空中で両手が止まっている。 そしてすぐに手をおろした。 なにかしようとしたのかな?) 後輩「お、お待たせして申し訳ありません……」 男「え? あ、うん。 女は化けるとは、よく言ったものだと思う) 男(なにか言わなきゃ……そう。 たとえば『その浴衣似合ってるよ』とか?) 男(いや、無難すぎる。 もっとパンチの効いたセリフ) 男(『その浴衣かわいいねー! でもキミのほうがもっとかわいいねえー!』とか?) 後輩「……とりあえず、露店のほうへ行きませんか?」 男「うん、そうだね。 ……あ、あのさ」 男(隣にいる彼女がオレの顔を見上げる。 オレは顔に血がのぼっていくのを感じながら言った) 男「そ、その浴衣……に、似合ってるよ!?」 男(完全に声がひっくり返っていた。 まるで時間ごと止まったようだった) 男(なにか間違えたのだろうか。 不安がそのまま汗に変わって、こめかみを伝う) 後輩「……あ」 男(次の瞬間。 急に彼女の顔が赤くなった。 顔に血がのぼっていく音が聞こえてくるみたいだった) 後輩「あ、ありがとうございます……」 男「……なんか今日のオレたち、変だね」 後輩「ふふっ……そうですね。 お祭りだから、でしょうか?」 男「よくわかんない。 まあとりあえず屋台へ行こうよ」 後輩「はいっ」 男(レミちゃんが遠慮がちに、オレのシャツの袖をつかむ。 歩き出す) 男(引っ張られるオレ。 金魚すくいと型抜きとか色々ありますね」 男「そういえば、祭りに来てもこの手のゲームはやらないな」 後輩「そうなんですか?」 男「ゲームは苦手だし、手がふさがるから。 友達がやってるのを見てるのがほとんど」 男(じょじょにオレも正常な状態に戻ってきた。 周りを見る余裕もできてきた) 男(男特有のぶっとい声の代わりに、女性の甲高い声があちこちで客を呼んでいる) 後輩「それにしても人が多いですね」 男「そこまで規模の大きい祭りじゃないんだけどね。 地元の人間はみんな来るんだよな」 男(レミちゃんが立ち止まる。 ある露店を見ているようだ。 レミちゃんが見ていたのは、露店のお面じゃなかった) 男(その付近の中学生二人組の片方がこけていたのだ。 でも、片方の女子が手を差し伸べている) 男(そして立ち上がると、手をつないで再び歩き出した) 後輩「ごめんなさい。 急に立ち止まったら、危ないですね」 男「うん。 だから……」 男(なにが『だから』なんだろう。 オレは勢いに任せてレミちゃんの手をつかんでいた) 後輩「あっ……」 男(一瞬握った冷たい手が、ビクッと動く。 オレの心臓はそれ以上に跳ねる) 男(でもすぐに握り返してくれた。 食べる?」 後輩「そうですね。 私たち、まだ歩いてるだけでなにも買ってませんもんね。 味はどうしますか?」 男「実はオレ、よくわからないんだ。 かき氷ってひとりだと食べきれなくて」 後輩「じゃあひとつのものをわけっこしますか?」 男「そうしよっか?」 男(レミちゃんがかき氷を頼む) 男「お金はオレが払うよ。 ……っと、ごめん。 これがあるから、ひとりだと食べれないんだよなあ」 後輩「たしかに後半は飽きちゃいますね」 男「ううー。 はい、スプーン」 後輩「いただきます……」 男(かき氷をすくおうとするレミちゃんの手が止まる) 男「どうした?」 後輩「い、いえ。 い、いただきます……んっ、おいしいですね」 男「うん。 あの……まだ食べますか?」 男「んー、オレはもういいかな? 今がちょうどいい感じ」 後輩「もう少しだけ食べませんか……?」 男「ああ、いいよいいよ。 ……今日は一緒に来てくれて、本当にありがとうございました」 男「お礼を言いたいのは、こっちだよ」 後輩「……私、先輩と一緒に祭りに行くことに、ずっと憧れていたんです」 男「憧れとか言わると……照れる」 後輩「誇張表現とかそういうのじゃありませんよ?」 男(なぜかアカリとの会話を思い出す。 でもアレはこの子のことだけを考えたわけじゃない) 男(倒れている彼女を見たアイツが、オレに『助けてあげて』と言ったのだ) 男(オレはアイツにいいところを見せたい。 そう思ったからレミちゃんを助けた) 後輩「どうして先輩が私を助けてくれたかなんて、その理由は些細なことなんです」 後輩「私にとっては、先輩が助けてくれたってその事実がただ大切だったんです」 男「……そっか」 後輩「今日のことは絶対に忘れません」 男(彼女の口調に嘘はない、そう思う。 空を見上げている。 オレも前を見ている) 男(どうして彼女がそんな態度をとるのか。 オレはもうわかっていた) 後輩「……花火」 男「キレイだね」 後輩「私たち、いい場所をとりましたね」 男「うん」 男(オレたちは隣り合っている。 手も重ね合わせている) 男(でも、オレたちの間には小さな隙間があった) 男(夜空に弾ける花火を黙って見続ける。 キミが話したいことっていうのは、そこで聞く」 後輩「……わかりました」 男(自然と手がはなれる。 明日すべてが終わるのか。 それはわからない) 男(でも明日。 オレは朝早く起きて、自転車をこいである場所へと向かった) 男(ちなみに、後ろにはレミちゃんを乗せて。 目的の場所について自転車を止まる) 後輩「ここ、神社ですよね。 ここになにがあるんですか?」 男「あるっていうより、いるって言ったほうがいいかな」 後輩「いる? 誰かがいるんですか?」 男「うん。 見ればわかるよ」 男(人気のない神社。 もとの日当たりの悪さと生い茂る針葉樹のせいで) 男(その神社はひどく不気味だった。 それでも、オレも驚かずにはいられなかった) 男(まさかこんなことが本当にあるなんて……) 「……なんでわかったんだよ。 ここにいるって」 男「友達に協力してもらったんだよ」 「友達ねえ……」 男「ついでに言うと、お前が見つかったのはお前自身のミスでもあるけどね」 「……」 男(そいつは金髪だった。 一回も出てなかったもんね? この世界の俺。 もうひとりの『オレ』だよ」 後輩「もうひとりの先輩……」 漢「もう一度聞こうか。 どうやってわかった?」 男「……オレがお前の存在に気づいたきっかけはアカリだ」 男「レミちゃんは、アイツが図書室に来たときのこと覚えてる?」 後輩「あの人ですよね。 言われてみると、ちょっと奇妙だなって思いました」 後輩「先輩が自分の居場所をあの人に教えたのだとしたら、あんなに戸惑いませんよね?」 男「そのとおり。 実際、オレはあの子に居場所を教えてない」 男「さらに言うと、オレのスマホにはあの子からの連絡なんてなにひとつ来ていない」 男「じゃあアカリは誰と連絡をとったのか。 そして、誰がオレの居場所を教えたのか」 男「そう考えたとき、ある可能性に気づいた」 漢「だが、それだけじゃあ根拠としては弱すぎるはずだ」 男「もちろん。 だけど、オレにヒントをくれたのはそれだけじゃない」 男「お嬢とした会話。 オレがお前の居場所をわかったのもお嬢の協力があったから」 男「でも、オレがこのことを知ったときは、お嬢はこう言っていた」 男「『位置が実際のそれとズレてる』って。 チートすぎるだろ」 男「うるせー。 それに、お前の存在を裏付けたのはこれだけじゃない」 男「最後の手がかりにして、一番の手がかり……これだ」 後輩「それって……ウォークマンですよね?」 漢「それがなんだっていうんだ」 男「これのせいで、オレはいっきに混乱したよ。 自分の推理が矛盾したものになったから」 漢「……」 男「ヤマダはこれを壊れているって言った。 この矛盾に一瞬戸惑った。 でもすぐに答えは出せた」 男「これらの要素から、考えられることはふたつ」 男「オレが今いる場所が『パラレルワールド』であるっていうこと」 男「そして、お前もこの世界の住人じゃないってことだ」 男「つまり。 お前がアカリにオレの居場所を教えなきゃ、たぶん気づかなかったよ」 漢「だってあの女の連絡、半端じゃないんだぜ? 鬱陶しいし、俺って機械苦手だから着信拒否の仕方とかもわかんなかったし」 男「……」 漢「それに、その程度のことででたどり着かれるとは思ってなかったからな」 男「どうしてオレを殺そうとした? それにそんな似合わないカツラまでつけてるし」 漢「カツラは変装の一環。 どうせお前は……ここで死ぬんだからなっ!」 男(『オレ』がオレに向かって走ってくる。 鈍く光るナイフ。 小さな背中がオレを庇う) 漢「レミちゃ……レミっ! そこをどけっ!」 後輩「どきません。 それに、そんなことをしても、あなたはご自分の世界へは戻れません」 漢「お前はなにかを知っているのか?」 後輩「それは……」 男「……レミちゃん。 キミはオレと同じ世界の人なんじゃないの?」 後輩「……」 男(沈黙するレミちゃん。 それは、キミにとって違和感のないものだったから」 男「……そうでしょ?」 後輩「そうです。 私は先輩と同じ世界の人間です」 男(……ここまでは予想通りだった) 男(だけどイヤな予感が墨汁のように、胸に広がっていくのをオレは感じていた) 漢「それだけじゃないよな? 俺を止めて、無駄だって言った根拠はなんだ?」 男(そう、これだ。 でも、その事実から目をそらしたかったんだ) 後輩「……先輩の言っていることは、半分は当たっています」 男「半分って……」 後輩「私は先輩と同じ世界から来ています。 でもその告白は、どちらかといえば懺悔のようなものに聞こえた) 後輩「私は過去に先輩に告白したことがあるんです」 男「告白? でもオレにそんな記憶は……」 後輩「ちがう世界の先輩に、です。 そう思ったときです」 後輩「この奇妙な世界の存在を見つけたのは」 男「女しかいない世界、か」 後輩「はい。 普通なら一日か、大きく移動しても二日程度なんですが」 後輩「ほとんどの世界には、変化といった変化はほとんどありませんでした」 後輩「この世界だけが異様だった。 そのせいで、移動と一緒に時間がかかったのかもしれません」 男「本来のこの世界のオレは? 女だったはずのオレがいるはずだ」 後輩「この世界の先輩は、夏休み中に交通事故で死ぬはずだったんです」 男「交通事故? 死ぬ?」 後輩「でも世界移動と同時に先輩と、こちらの先輩を入れ替えました」 後輩「だから彼女は助かったと思います。 ただ、私は先輩よりだいぶ前にこの世界に来ています」 後輩「そして、この世界で慣れたころに先輩を連れてきて、入れ替えたんです」 後輩「……私は自分のわがままで、先輩をこんな目にあわせたんです」 男(なんと言えばいいのか、わからなかった。 嘘みたいな本当の話) 漢「待てよ。 オレの思考をゆっくりと侵食していく) 漢「メールが来たんだよ。 見てみな」 男(もうひとりの『オレ』がスマホの液晶をオレに見せつける) 男(そこには、『オレ』がパラレルワールドに連れてこられたということが書いてある) 男(さらに、続けてこう書かれていた) 男(『もうひとりのあなたが、あなたのいる場所に現れる』) 男「じゃあ、お前は最初からオレがこの世界に来たことを知ってたのか?」 漢「当たり前だろうが。 さらにスマホのアプリやアドレス帳を全部消せってメールに書かれていた」 男「じゃあオレのスマホの中身が空に近い状態だったのは……」 漢「そう、俺が全部やった。 そして、さらに次の日。 そうすれば、あなたは自分の世界へ帰れる』……」 後輩「!」 漢「送られてきたアドレスは知らないものだったが、そんなのはどうでもいい」 漢「問題は俺にお前を殺させようとしたことだ。 どう思う『俺』?」 男「そんな……」 男(わからない。 これは本当のメールなのか? 偽物……?) 後輩「ち、ちがいますっ! 私はそんなこと……」 漢「ちがうっていうなら、証拠を見せろよ。 どれだけ努力しても報われないなんて知ったら、逆恨みもしたくなるだろ」 男(いつか先輩がオレに言った言葉) 男(『愛情って一瞬で、憎しみに変わったり気がするけど』) 男(そういうことなのか? オレは……) 男(わけがわからなくなる。 なにも考えたくない。 足に力が入らない) 男(だけど頭の片隅で違和感のようなものが、オレにささやいている。 思考を止めるな、と) 男(これで終わりじゃないって、本能のようなものがうったえている気がする) 漢「ヒドイ女だな。 『オレ』の表情が変わる) 男(『オレ』が近づいてくる。 オレは動かない。 ナイフが振り上げられる。 それに刺せよ、って言ってからけっこう後悔した」 漢「ダサっ」 男「はあ? 結局オレを殺せなかったヘタレのお前に言われたくない」 漢「うるせえ。 殺人だぞ……そんな簡単にできるわけないだろうがっ」 男「そうだよな。 『オレ』ならそう言うと思った。 だから、手ぶらでここに来たんだよ」 漢「けっ……全部お見通しみたいな言い方してんじゃねえよ」 男「実際、オレへの殺人行為は一回きり。 オレとお前は同じ人間だろ?」 男「オレも女の子と気まずくなったぐらいで、話せなくなる根性なしだからさ」 漢「嬉しそうに言ってんじゃねえよ、この童貞」 男「うるせー。 ……そういや、お前さ。 お嬢とかヤマダと……」 漢「ああ。 この世界のそのふたりと、俺はまあ……うん、そういうことだわ」 男「そしてふたりには、お前のからだのことは『ふたりだけの秘密』って言って隠したんだな?」 漢「そう。 だからわかるんだけど、けっこう似たような行動をとっていた」 漢「そしておそらく、いずれはお前も俺と同じように自暴自棄になったはずだ」 男「……そうかもね。 そのうちお前みたいに似合わない金髪ウィッグでもするのかもな」 漢「ウィッグは変装のためだっつーの」 男「あとついでに、オレの財布を盗んだだろ」 漢「よく気づいたな。 ていうか、否定しないんだな」 男「いや、最初は周りに女の子しかいないっていうんで、戸惑った」 男「けど、なんでか知らないけどモテモテなんだ。 だからけっこう舞い上がってた」 漢「不思議だよな。 そいつらは自分が知っている連中と同じ顔をしている」 漢「だけど、常にどこかがちがうという違和感を覚える」 漢「人と接するうちにだんだん疲れてくるんだよ」 漢「同性の友達もいないから、周りに相談しても微妙は反応しか返ってこない」 漢「というより、理解してもらえなかった」 漢「ハーレムも最初はいいと思ったけど、周りが女しかいなんだ」 漢「途中から優越感も感じなくなって、最終的には鬱陶しいと思うだけになった」 漢「……ああ、あとアレもあったな」 男「あれ?」 漢「俺の幼馴染が知らない女とキスしている場面を見た」 男「……なるほど。 でも、この世界に居続けたら、オレもいずれお前みたいになってたのかもな」 漢「絶対なってたよ。 間違いない」 男「……お前さ、『人生で言いたいセリフベスト30』とか作ってる?」 漢「……お前も作ってんの?」 男「うわあ、やっぱり同じなんだ。 ちなみに一位のセリフは?」 漢「なんで言わなきゃいけねえんだよ」 男「わかった。 じゃあ同じタイミングで言おう」 漢「……しゃあねえな。 ほかの人間の口から聞いて思った。 キモイなこのセリフ」 漢「同感だな。 とは言っても、同じ人間の口から出た言葉だけどな」 男「そうだね。 ていうか、すっかり普通に話しているけどさ」 漢「おう」 男「お前、オレを殺さなくていいの?」 漢「べつに。 だいたいお前の言ってることが正しいんだとしたら……」 漢「そこはもう無理やりどうにかするしかないだろ」 男「……」 漢「脅すなり拘束するなりしろ。 で、もとの世界に戻ったら絶交でもしろ」 男「オレは……あの子のことが……」 漢「は?」 男「いや、やっぱりお前に言っても仕方ない」 漢「なんでもいいから連絡しろよ。 スマホあるだろ?」 男「んー……いや、待った。 すっかり忘れてた」 漢「なにをだよ?」 男(ようやくオレは違和感の正体に気づいた。 それは電話だ) 男(電話越しに言われた『殺してやる』。 アレは誰だ?) 男(もちろん、もうひとりの『オレ』ではない。 アレは間違いなく女の声だった) 男(あの声には聞き覚えがある。 でも、嘘はついてないとしたら?) 男(一度だけ、彼女が嘘をついたと思われる場面がある。 でもそれが嘘じゃなかったら?) 男「そうだよ。 ありえない話じゃない」 漢「おいおい、ひとりの世界に入りすぎだろ」 男「……ごめん。 オレ、レミちゃんを迎えに行ってくるわ」 漢「どうしたんだ急に? なんか顔つきが変わったぞ」 男「ああ。 それに逃げてどうするの?」 後輩「……わかりません。 未だに考えがグチャグチャになっています」 「気持ちはわかるけどね。 あなたの気持ちは……なおさらね」 後輩「そう言われても、あまり嬉しくないです」 「うん、それもわかる。 そしてあなたは、自分は殺されないとでも思った?」 後輩「ナイフを見て、初めて気づきました」 「そう、バカだね。 というかこの屋上って場所で逃げようとするのが、間違いよ」 後輩「どうして私を殺すんですか?」 「いちいち理由を説明するのはイヤ。 なんで逃げるの? 自分がやったことの罪悪感で苦しんでるくせに」 後輩「……そうですね。 私は最低なことをしました。 でも、自分が真っ先に狙われるって察したのは褒めてあげる」 後輩「私を殺して、それで先輩たちはどうするんですか?」 「さあ? 少なくともあなたみたいに、もとの世界に戻すなんてことはしない」 後輩「……だったら死ぬわけにはいかないです」 「もう彼はあなたに対して憎悪しか抱いてないよ。 あなたが彼を騙したから」 後輩「それでも私は、先輩をもとの世界へ返してあげなきゃいけないんです」 「そう。 オレが今、キミに電話したんだから。 抜けるような青空を背景に、同じ顔をした女の子がふたりいる) 男(でも、ふたりのちがいは明白だった。 同じ顔をしているのに、まるで別人だ) 男(もうひとりの『レミ』ちゃんは、オレの知っているレミちゃんよりもだいぶ大人びて見える) 男(太陽の光の下でも、彼女の周りだけ影が落ちているかのように暗い雰囲気を漂わせている) コウハイ「なんで……」 男「なんでキミに気づいたかって? ひとつは電話。 電話から聞こえてきた声」 男「本当はすぐ気づけたはずだった。 あなたよりずっと私は世界移動を繰り返して、足掻き続けてきた」 コウハイ「でも私はどう頑張っても、報われない」 後輩「……」 コウハイ「私もね、あなたと同じことをした」 コウハイ「この女しかいない世界に、ちがう世界の先輩を連れてきたことがある」 コウハイ「でも、やっぱり先輩は私のことを好きにはなってくれなかった」 コウハイ「あきらめればいい話なのにね。 あきらめられないよね?」 後輩「……はい」 コウハイ「ずっと先輩の存在は私の心を縛り続ける」 コウハイ「このままだと本当に狂いそう。 どの世界の先輩でもいいから、殺そうと思った」 男「キミがもうひとりの『オレ』を騙したのも、それが理由ってこと?」 コウハイ「この女しかいない世界で、先輩を連れてきて殺す。 それで終わるはずだった」 コウハイ「でも予定外のことが起きた」 後輩「……私がこの世界に来たことですね」 コウハイ「そう。 最初は驚いた。 今までも自分以外の自分は見てきた」 コウハイ「でも、私と同じ能力を持った自分を見たのは、あなたが初めてだった」 コウハイ「私はあなたが、なにをしようとしているのかすぐわかった」 コウハイ「あなたは過去の私と同じだったから」 男「……待った。 世界移動は時間を逆行する」 コウハイ「もうひとりの『私』がこの世界へ来るより前の時間に、移動してしまえばいい」 コウハイ「そしてこの世界へ『先輩』を連れてきて、女の先輩と入れ替えた」 コウハイ「あなたは女の先輩と、あなたの今隣にいる先輩を入れ替えたつもりだったんでしょうね」 後輩「実際にはちがったってことですね……」 コウハイ「そう。 本当だったら逃げ出したい。 あっちの『レミ』ちゃんがオレに向かって突っ込んできたら、すぐ走るんだ」 後輩「先輩を置いて逃げろって言うんですか……!?」 男「オレは大丈夫だから」 男(声がみっともなく震える。 声だけじゃない。 足もだ。 暴れる心臓が胸を破って出てきそうだった) 男(女の子にオレは本気でビビっている。 どれぐらいの時間が経っただろう) コウハイ「……どうしてですか?」 男「?」 コウハイ「なんで……もうひとりの『私』を好きになったんですか?」 男「それは……えっと……」 男(どのタイミングで好きになったんだろ? 気づいたら好きになってたって感じだしな) 男(オレはふと隣のレミちゃんを見た。 もうひとりの『オレ』が、オレを突き飛ばしたとき」 男「レミちゃんに助けてもらって……うん……そんな感じ」 漢「皮肉なもんだ」 男「どういうこと?」 漢「それが惚れるきっかけだったんだろ?」 男「まあ……」 漢「『レミ』ちゃんが、お前を殺そうとした。 そのことが惚れるきっかけを作ったわけだ」 コウハイ「私が、原因……それであなたたちが……」 コウハイ「絶対に成立しなかった恋が……私が原因で……」 男(事実を受け入れられない人間特有の表情。 あとは俺がコイツの面倒を見ておくから」 男「は?」 漢「もうお前らにできることはねえよ。 ていうか、お前らがいるとかえってダメだろ」 男「でも、お前だって……」 漢「俺はもともとコイツに、この世界に連れてこられた。 だからコイツに返してもらう」 漢「文句も山のようにあるんだ。 殺そうとしたことは……ごめん」 男「ホントだよ。 なんで殺人未遂で『ごめん』なんだよ」 漢「お前は俺じゃない。 だけど俺だ。 どう謝ったらいいのか、わからないんだよ」 男「そうだな。 よく考えたら自分と自分が会うなんて、ありえないことだもんね」 漢「もう二度と会うこともないな。 ……そろそろ行けよ」 男「あっ、ひとつだけ聞いておきたいんだけど。 お前ってこの世界でクラス写真撮った?」 漢「クラス写真? 撮ってないけど、それがどうした?」 男「んー、べつに。 少しだけ気になったから聞いただけだよ。 なにを話したかは、あえて聞かなかった) 男「……」 後輩「……」 男(これで終わったのか。 終わったのかな? あとはレミちゃんと……) 男「……ぐっ!? ゴホゴホっ!」 後輩「ど、どうしたんですか先輩!?」 男(レミちゃんが突然むせだしたオレの顔を覗きこむ。 オレは顔をそむけた) 男(顔が熱い。 ……うん、見た感じ大丈夫そうかな?」 後輩「本当ですか?」 男「うん、本当だよ。 そっちこそ、さっき思いっきり突き飛ばしちゃったけど……」 後輩「私のことはいいんです」 男「よくないよ。 私のせいで……先輩に……」 男「もう終わったことだし、それはいいよ。 オレは気にしてないよ……そんなには」 後輩「ちょっとは気にしてるんですね」 男「まあ正直、色々と衝撃的なことがありすぎて。 ごめんなさい、時間をとらせてしまって」 後輩「……いつでも、もとに戻ることがあります」 男「そんな簡単に戻れるものなの?」 後輩「はい。 わりとお手軽に」 男「……じゃあ悪いんだけど、少しここで待っててほしい」 男「ひとりだけ会っておきたい人がいるんだ」 男(本当のことを言えば、みんなのことも気になっていた) 男(だけど、もう会わないほうがいいだろう) 男「ちょっと図書室に行ってくる」 男(最後の疑問の答え。 言ってみたかっただけ。 私はべつの世界の人間だったの」 男「あっさりと認めますね」 本娘「人殺しをしたとかじゃないしね」 男「……先輩はボクの正体に気づいてたんですか?」 本娘「もちろん。 君って女の子っぽい顔してるけど、それでもさすがわかるわよね」 本娘「あとは一人称とかでね」 男「そういえば……」 本娘「でもね。 不思議なことにこの世界でも、一般的に男子が使う一人称が存在してるの」 男「へえ。 本当に不思議ですね」 本娘「うん。 密着すれば、それでからだの感触はわかるでしょ?」 男「そ、そういうことだったんですか……」 本娘「ところで、君はどこまで自分の問題を解決できたのかしら?」 男(オレは先輩に今まであったことを、簡単に説明した) 本娘「……途中、ややこしくて理解できない部分もあったけど……なるほどねえ」 男「信じてくれるんですか?」 本娘「私自身が、信じられない経験してるんだもの」 男「まあそれもそうですね」 本娘「とりあえず、君は無事にもとに戻れそうなのね」 男「はい。 ここはボクの世界じゃないし。 残念ながら私が君に惚れる確率は限りなくゼロに近いのだっ」 男「のだっ、じゃないですよ」 本娘「あら? ひょっとして少し残念がってる?」 男「そんなことありません。 今のボクにはまあ……ええ……」 本娘「煮え切らない言い方するわね。 本来あるべき存在がいないせいかしらね」 本娘「だからこそ本来いなければならない男って存在に、本能的に惹かれたんじゃないかしら?」 男「なるほど。 言われてみると、そうかもって気がします」 本娘「こんなのは私の単なる想像だけどね」 男「……ボク、確かめたいことがあってここに来たんです」 本娘「目的のものはズバリ、学級写真かな?」 男「うわっ、すごい。 レミちゃんにも、よろしく言っておいてね」 男「はい……あの、本当にボクたちだけ帰っていいんですか?」 本娘「私は、気づいたらこの世界にいた」 本娘「最初は戸惑ったし困り果てたわ。 でも、今はもう慣れちゃったから」 男「でも……」 本娘「いいって言ってるでしょ? まったく……優しいんだから」 男「いや、ボクって無駄に気が小さいんで。 でも、私はちがうの」 男「と、言いますと?」 本娘「私は私。 世界中のどこにいても私は私」 本娘「周りがどうなろうと私は私であり続ける。 世界なんて関係ない。 まあ単純に、ここが私のユートピアだってこともあるしね。 男「本当ならボクもそのはずなんですけどね」 本娘「ほんとっ、もったいないわねえ」 男「でもボクにはハーレムなんて向いてないし、必要ないと思います。 好きな女の子がひとりだけ、そばにいてくれればそれでいいんです」 本娘「そうね。 結局、挨拶らしい挨拶をしたのは先輩しかいない) 男(でも) 男「うん。 ……ところで今度はどれだけの時間、逆行するんだろ」 後輩「わかりません。 ……その、手をつないでもらってもいいですか?」 男「……う、うん」 後輩「んっ……!」 男(冷たい手の感触。 今日から始業式だろ?」 男「そんなこと言われても……」 兄「どうせお前のことだから、また夏休みの課題を残してたんだろ?」 男「だって! 夏休みの宿題二回目なんだぞっ!」 兄「なに、今の高校は馬鹿な生徒には二回も夏休みの宿題を出すの?」 男「ちがうわ!」 兄「まあなんでもいいから、早く支度しろよ。 でも、友達に会ったら挨拶しとかないとね」 男「そっか、なんかわざわざ悪いね」 女「ああでも、やっぱり急がないとっ!」 男「ちょっと待った。 引き止めてごめん」 女「ううんっ。 また教室でね、バイバイっ!」 男(そう言うとアカリは走っていってしまった) 男(あっちの世界に比べると、実にあっさりしたやりとりだった) 男「でも、これが本当のオレとあの子の関係だもんな」 男(そう、これでいい。 もちろん男) 友「よっ、二週間ぶりぐらいか? 結局後半は遊ばなかったな」 男「……ヤマダ」 友「どうしたんだよ、そんな顔して。 失恋のショックでついにホモになったのかと思ったわ」 男「誰がホモだ。 オレは純粋にお前への友情から抱きついただけだ」 友「キモっ! いやマジで気持ち悪い!」 男「んだとぉっ! お前だって……」 友「なんだよ?」 男「ごめん、なんでもない」 友「どうしたんだよ、今度はシュンって落ちこんで」 男「落ちこんではいない。 元気にしてた?」 男「久しぶりってつい最近も会ってるでしょ」 お嬢「え?」 男「あ、いや……嘘です。 盛大な勘違い」 お嬢「ふふっ……相変わらずどこか抜けてるね」 友「なっ? しかも会った早々いきなり抱きついてくるし」 男「だーかーら、アレはちがうんだって」 お嬢「じゃあどうして抱きついてたの?」 男「それは……そう、再開の喜びを分かち合うためだよ。 それぐらいわかれよ」 友「わかるか。 またフラれたね」 男「……おう。 これからオレ、用事があるんだ」 友「先生に呼び出してもくらった?」 男「ちがうってば。 当たり前でしょ」 男「……なんか、こうやって話したのは久々だな」 幼馴染「そうね。 ここのところは、すれちがっても話さなかったよね」 男「エミ、お前って今彼氏いるの?」 幼馴染「……なんでそんなこと聞くの?」 男「ただ気になっただけ。 べつにいいでしょ、幼馴染なんだし」 幼馴染「……いるけど」 男「そっか。 ていうか話がそれたな」 幼馴染「そうよ。 結局なにが言いたかったの?」 男「すぅー……はぁ……お前に言っておく」 幼馴染「……」 男「彼女ができたらお前に紹介してやる! 以上っ!」 男(自分でも引くぐらいの大声。 おそらく廊下に響き渡っただろう) 幼馴染「……は?」 男「覚えておけよ。 言わなきゃいけないことだ」 男(レミちゃんの表情がこわばる。 でも、それはオレも同じだろう) 男(なにを緊張することがあるんだ? 彼女はもうオレに好きと言っただろ?) 男(いや、でも……よくよく考えるとオレはあっちの世界でけっこうな醜態を演じているのだった) 男(女装に始まり、情けないところも見せたし、もしかしたらパンツも見られたかも) 男(会ってない間に冷静になって、『こんなヤツのどこがいいんだ?』とか考え出してたら……) 男(暗い想像のビジョンが、脳みそを埋め尽くす) 男(今日は風が強かった。 暴れる心臓の音で周りの音がなにも聞こえない) 男(背中を流れる汗がそのまま蒸発しそうなぐらい、からだが熱い) 男(オレは大きく息を吸った。 そして言った) 男「オレをあなたの彼氏にしてくださいっ!」 後輩「……」 男「……」 男(返事がない。 顔をあげる。 オレまでなぜか泣きそうになる) 後輩「……わ、私も……ぅ…………先輩のことが……好き、です……」 男「レミ、ちゃん……」 後輩「私は……私はあなたが世界で一番、あなたが……好きです……!」 男「……!」 男(レミちゃんがオレの胸にしがみつく。 オレはこんなときどうすればいいのか、わからなかった) 男(……これって、オレたちは恋人になったってことだよな) 男(告白まではオレも知っている。 でも告白が成功したそのあとのことをオレは知らない) 男(どうしたらいいのかわからない。 なんかオレまで泣きそうだし」 男(実感が全く湧かなかった) 男(でも、今こうしてオレが感じている彼女の温もりはまぎれもない本物だ) 男「……これからも、よろしくね」 後輩「はいっ……こちらこそ……!」 男(どうしよう。 末永くお幸せにな!」 男(それだけ言うと、アイツらは帰っていった) 男「あー……こりゃあ、明日には広まってるな。 ここまで読んでくれたみなさん、本当にありがとうございました。 けっこう皆さんが予想してくれたり、考察までしてくれる人がいたり、嬉しかったです。 次回はホラーssで会いましょう。 2019-11-01 22:44:50 実は 嫌 韓 ウ ヨ ク と 親 韓 パ ヨ ク は グ ル。 目的は同じ。 それは 国家をなくして 世界統一独裁政府を作ることです。 日本も、【日米FTA】とアジア版EUというべき 【RCEP】に取り込まれようとしています。 日韓対立も、ウヨサヨ対立も、 全てはそれを隠すための茶番劇です。 「現在、【 日 米 F T A 】 と 【 R C E P 】の交渉が大詰めを迎えており、 今年中に両方とも妥結する可能性が高い。 こんなものを受け入れたら国民主権も民主制度も破壊される。

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鬼滅の刃の名言を100個教えてください。

俺は君に言いたいことがある 耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ

【鬼滅の刃】我妻善逸とはどんなキャラクターか? 善逸は炭治郎たちと同期の鬼殺隊の剣士。 金髪でぱっつんの短髪で、太いタレ眉が見た目の特徴です。 性格は極度のヘタレで女好き。 善人ではあるけど、 どうしようもなく情けない挙動・台詞が目立ちます。 善逸の特徴1:ヘタレ 初めて登場したのは最終選別試験。 炭治郎と同期で同じ選別試験を乗り越えます。 (C)吾峠呼世晴 このときからヘタレっぷりが強調されていて、 「死ぬわ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ ここで生き残っても結局死ぬわ俺」「多分すぐ死にますよ俺は」と圧倒的に弱気なところを見せます。 怯えてるときの言語センスがいちいち天才的。 (C)吾峠呼世晴 口を開けば迷言を吐くので、 善逸のネガティブタオルという不名誉な公式グッズが作られました。 (で買えます) 善逸の特徴2:女好き また、とても女好き。 さすがの炭治郎もドン引き。 (C)吾峠呼世晴 鬼殺隊になったのも、女に騙されてできた借金を鬼狩りの育手に肩代わりしてもらったから、というロクでもない理由から。 (C)吾峠呼世晴 他の鬼殺隊のメンバーは鬼に親とか殺されてるのにね……。 善逸の特徴3:眠ると超強くなる 戦うときもヘタれていて、素の状態では戦うこともままならない始末。 鬼からは全力で逃げ出します。 敵が迫り、恐怖が極限まで達すると、突如眠りに落ちます。 彼は居合の達人。 「雷の呼吸」によって一瞬のうちに鬼の身体を切断します。 (C)吾峠呼世晴 使える技は、 「壱ノ型 霹靂一閃」のみ。 神速の一閃。 鬼ですら目で捉えることができない速さで、善逸が瞬間移動したようにしか見えない技。 雷の型は本来六つ存在しますが、善逸が習得できたのはこれだけ。 唯一できた技を磨き上げて、自ら発展させてきたってのが厨二ポイントが非常に高い。 壱ノ型 霹靂一閃 六連や八連など、技に磨きをかけていくのがたまらん。 (C)吾峠呼世晴 善逸の特徴4:馬鹿みたいに人がいい じゃあ起きてるときはダメ人間なのかというと、そうじゃないんすよね。 弱音しか吐かないしすぐ逃げるし、女には見境がないんですけど、根が良い人間すぎる。 具体的には、自分がボコボコにされても、炭治郎が大事にしていた禰豆子入の箱を身を挺して守ったり。 (C)吾峠呼世晴 耳が良くて人の嘘を見破れるのに、聞こえてくる音よりも、自分が信じたいと思う人を信じたり、とか。 (結果騙されるけど) 臆病でクズであることを自覚しながら、根底ではそれを原動力に「変わりたい」と思い続けてるんですよ。 特に、自分を見捨てずに育ててくれた師匠・桑島慈悟郎には恩を感じていて、「じいちゃんが自分にかけてくれた時間は無駄じゃない」と証明したがっています。 (C)吾峠呼世晴 ホントダメダメなんですけど、大事なとこで決めるので憎めないキャラ。 ……まあかっこよかった次の瞬間には株を勝手に下げるんですけど、それはそれで面白いっていう美味しい人柄です。 このあたりをふまえて、善逸の面白いシーンや迷言と、かっこいいところをまとめていきます。 あまりのギャップに同一人物かこれ?ってなるかもしれませんが、同一人物です。 【鬼滅の刃】我妻善逸の面白いシーン・名言・顔芸 それでは、善逸の日頃の行いをご紹介します。 「死ぬわ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ ここで生き残っても結局死ぬわ俺」「多分すぐ死にますよ俺は」 (C)吾峠呼世晴 原作2巻・8話より。 最終選別試験を乗り越えたものの、ビクつきまくりでなんだこいつ状態。 「え?鴉?これ雀じゃね?」 (C)吾峠呼世晴 原作2巻・8話より。 鬼殺隊員に伝令をする鎹鴉を受け取るも、なぜか善逸だけ雀。 理由は未だに明かされません。 よくわかりませんが、善逸への扱いが伺えます。 炭治郎が見かけたとき、初対面の女性にプロポーズしている善逸の図。 広い心をもつ炭治郎もこの表情である。 「俺はな ものすごく弱いんだぜ 舐めるなよ」 (C)吾峠呼世晴 原作3巻・20話より。 プロポーズを炭治郎に止められ、 「お前のせいで結婚できなかった。 だからお前が責任持って俺を守れ」と迫る男。 どう考えても炭治郎のせいではないし、保身にも余念がないクズムーブ。 「何折ってんだよ骨 折るんじゃないよ骨 折れてる炭治郎じゃ俺を守りきれないぜ!」「死んだよ俺!!九分九厘死んだ!」 (C)吾峠呼世晴 原作3巻・21話より。 炭治郎が骨折していることを知り、自分を守りきれないかもしれないと思うとこのセリフである。 鬼殺隊のくせに一切自分を戦力にカウントしていません。 「心臓が口からまろび出る所だった」 (C)吾峠呼世晴 原作3巻・22話より。 転び出る【まろびでる】とは 転がりでる。 転がるようにして出る。 鼓屋敷周辺で、一般人の少年に話しかけられてビビる善逸の図。 まろび出るなんて単語よくでてきたな。 鬼に襲われた善逸の叫び声。 彼を語るのに欠かせないシーンです。 善逸役のオーディションは、汚い高音選手権と化したそうな。 「はあああ! 膝にきてる 恐怖が八割膝に!!」 (C)吾峠呼世晴 原作3巻・23話より。 同じく鬼に追われる善逸のセリフ。 面白いこと言おうとしてないか、お前? 「いいご身分だな……!!!」「俺の流した血を返せよ!!!」 (C)吾峠呼世晴 原作4巻・27話より。 善逸が守りきった禰豆子を、炭治郎の恋人と勘違いしてキレる善逸。 上げた株を一気に下げる天才。 「俺 嫌われてんのかな」 (C)吾峠呼世晴 原作4巻・29話より。 指令を受け那田蜘蛛山へ向かった炭治郎、善逸、伊之助の3人。 善逸が怖がって山に入らなかった結果、置いてかれて体育座りで落ち込みます。 (二人で説得してくれたらさ 行くからね 俺だって それなのに二人でさ 怖い山の中へ すたこらさっさですか 置きざりにされた俺の気持ちよ) 鬼殺隊なのに説得がいるのかよ。 那田蜘蛛山で人面蜘蛛と遭遇した善逸。 あまりのビジュアルに悪夢を疑います。 「でか!!でっか!! でかいわ!! でかすぎるよ!!」 (C)吾峠呼世晴 原作4巻・32話より。 蜘蛛家族の兄が現れ、そのサイズ感に驚愕。 3コマ連続でツッコむ芸当を見せます。 「でもさァ 俺だって精一杯頑張ってるよ!!なのに最後髪ずる抜けで化け物になんの!?嘘でしょ!?嘘すぎじゃない!?オェッ!」「もう この段階で抜けるの?」 (C)吾峠呼世晴 原作4巻・33話より。 蜘蛛の毒を受け、自らも髪が抜け蜘蛛になることを悲観しての台詞。 「嘘すぎじゃない」とか、「もうこの段階で抜けるの」とか、戦闘中なのにマジで緊張感がない。 「お前が謝れ!!お前らが詫びれ!!!天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねぇええええ!!女の子と毎日キャッキャキャッキャしてただけのくせに何をやつれた顔してみせたんだよ土下座して謝れよ切腹しろ!!」 (C)吾峠呼世晴 原作6巻・49話より。 善逸の療養中、女の子と訓練していた炭治郎と伊之助に嫉妬して怒り狂う図。 「俺に聞いて何か答えが出ると思っているならお前は愚かだぜ」 (C)吾峠呼世晴 原作6巻・49話より。 なぜそんなにドヤれるのか。 「三人!?嫁…さ…三!?テメッ…テメェ!!なんで嫁三人もいんだよ ざっけんなよ!!!」 (C)吾峠呼世晴 原作9巻・71話より。 音柱・宇随に嫁が3人いると聞いてブチギレる善逸。 宇随に顔でも惨敗し憤慨します。 吉原への潜入捜査で女装する善逸。 顔芸がすぎる。 番外:約束のネバーランドのクローネとのコラ ちなみに同時期に連載開始された約束のネバーランドのクローネとのコラが有名。 クローネは色物として、善逸はリアクション役として親和性が非常に高いです。 このコラのせいか、約束のネバーランドの人気投票に善逸がランクイン。 集英社も認知してそうです。 【鬼滅の刃】我妻善逸のかっこいいシーンや名言まとめ! ……と散々おもしろキャラとしての一面を見てきましたが、決めるときは決めるんですよ彼。 イケメンなところもまとめていきます。 「俺が……直接炭治郎に話を聞く だからお前は……引っ込んでろ!!」 (C)吾峠呼世晴 原作4巻・26話より。 禰豆子の入った箱を、鬼が入っていることを知った上で身を挺して守った善逸。 (C)吾峠呼世晴 「でもさぁ できなかったことできるようになるの嬉しいよね 炭治郎は俺をずっと励ましてくれたよ いいお兄ちゃんだねぇ禰豆子ちゃん」 (C)吾峠呼世晴 原作6巻・51話より 箱に入った禰豆子に語りかけます。 本人の居ないところで炭治郎への本心を語ります。 普通にいいやつで株上がる。 「禰豆子ちゃんは俺が守る」 (C)吾峠呼世晴 原作7巻・60話より。 無限列車にて、禰豆子のピンチを霹靂一閃六連で守り、決めゴマ! ……のあとにアホ面を晒します。 一瞬のうちに立てたフラグを折る男。 「俺は君に言いたいことがある 耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ」 (C)吾峠呼世晴 原作10巻・88話 上弦の鬼・堕姫に対し寝ながら啖呵を切ります。 その前にも、上弦クラスの鬼だと分かっていながら女の子を守ろうとするなど、この頃になると徐々に鬼への耐性も上がってきて鬼殺隊らしくなってきます。 (C)吾峠呼世晴 そして、まだ単行本では出ていないんですが、善逸が最高にかっこいいエピソードがあるので、ネタバレOKという方は下のボタンをタップしてください。 VS兄弟子・獪岳 16巻・134話で雀から手紙を受け取り、善逸はなにかを強く決意します。 (C)吾峠呼世晴 炭治郎が聞くと、「やるべきこと やらなくちゃいけないことがはっきりしただけだ」と答えるのみ。 (C)吾峠呼世晴 「これは絶対に俺がやらなきゃ駄目なんだ」 しばらくは、何のことかは明かされませんでした。 しかし、無惨による産屋敷亭襲撃中、それは明かされます。 善逸の眼の前に現れた鬼、獪岳(かいがく)。 獪岳は善逸のことを見下していた。 (C)吾峠呼世晴 雷の呼吸の壱の型しか使えない善逸と、逆に「壱の型だけが使えない」獪岳。 師匠の桑島慈悟郎は二人合わせて後継者にしようと考えていましたが、獪岳はそれを認めなかった。 雷の呼吸から鬼を出した善逸の師匠は、切腹し長く苦しみ死んだ。 「適当な穴埋めで上弦の下っぱに入れたのが随分嬉しいようだな」 「俺がカスならアンタはクズだ 壱ノ型しか使えない俺と壱ノ型だけ使えないアンタ 後継に恵まれなかった爺ちゃんが気の毒でならねぇよ」 普段からは考えられない皮肉を連発する善逸。 そして、二人はぶつかり合う。 (C)吾峠呼世晴 獪岳の放つ、雷の呼吸 肆ノ型 遠雷。 「おせーんだよ クズ」 (C)吾峠呼世晴 一切寝ていない、完全に意識のある状態での善逸の本気。 鬼と化した兄弟子すらも置き去りにする一閃で圧倒します。 しかし、獪岳は雷の呼吸の技は連発。 それを受けながら善逸は考えます。 (C)吾峠呼世晴 (心の中の幸せを入れる箱に穴が空いているんだ どんどん幸せが零れていく その穴に早く気づいて塞がなきゃ満たされることはない) 心の中で、師匠に謝る善逸。 「畜生!畜生!やっぱりあの爺贔屓しやがったな! お前にだけ教えて俺に教えなかった!」 「違う じいちゃんはそんな人じゃない」 (C)吾峠呼世晴 「これは俺の型だよ 俺が考えた俺だけの型」 「この技でいつかアンタと肩を並べて戦いたかった……」 意識がある状態での最初の戦闘がこれとかめちゃくちゃかっこいい!! 普段の頼りなさは鳴りを潜めて、師匠のために怒って、自分だけの新しい型で決める。 決意もバトルも満点のかっこよさでした。 単行本化が待ち遠しい。 善逸の活躍を見るなら 善逸の面白い迷言やかっこいいところをみたいなら、ぜひ原作やアニメもどうぞ。 FODでアニメを全話見直す 下野紘さんの汚い高音や迷言を聞きたければ、FODがおすすめ。 アニメが全話見直せます。 毎月8のつく日に400ポイントがもらえるので、2冊単行本が無料で読めます。 善逸を見るなら3巻、4巻、9巻がおすすめ。 ebookjapanで原作を一気に読む 善逸の成長を見るなら、ebookjapanで原作を揃えるのがおすすめです。 かなり安く買えるので、今から鬼滅の刃を揃えるならおすすめです。

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鬼滅の刃の名言を100個教えてください。

俺は君に言いたいことがある 耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ

クラウド達を乗せた脱出ポッドは無事に宇宙からの帰還を果たし、ウータイの遥か沖合の海に着水していた。 現在地を知らせる信号を発信し、あとは飛空艇に拾われるのを待つばかりだった。 クラウドとエアリスは疲れが出たのか、もたれ合うようにして眠ってしまっていた。 シドとシエラはモニターに映る海をぼんやりと眺めていた。 「そろそろハイウインドが来る頃ですね、艇長。 今更俺様だけ降りる訳にはいかねえからな。 」 「はい、なんですか?」 シドはチラッとクラウドとエアリスに視線を走らせ、眠っているかどうか確認した。 」 「え?」 「あのあと、おめえがしきりに気にしてた例の酸素ボンベを再チェックしてみたんだ。 そしたら、やっぱりイカレてやがった。 あのまま打ち上げを強行していりゃ、俺様は間違いなく宇宙の藻屑になってたろうな。 だが、俺様は心の狭い人間でい。 おめえに命を救われたことを棚に上げて悪態ばかりついてた。 」 シドはあさっての方を向いたまま、わずかに頭を下げた。 いいえ、いいんです。 「えらいっ、シド!よく謝れたね!」 突然、エアリスが拍手した。 「な、なんだおめえ!寝たフリしてたのか!」 シドはいたずらの現場を押さえられた子供のように、みっともなく慌てふためいた。 「よかったね、シド。 」 「何がよかったでいっ。 底意地の悪いマネしやがって!」 「でもこれで、長い間心の重石になってた物が取れたでしょ?」 エアリスはポンとシドの背を叩いた。 」 シドは照れ隠しのように怒ったフリを装っていた。 エアリスとシエラは顔を見合わせて小さく笑い合った。 それからしばらくして、飛空艇が彼らを発見した。 ロケット村へと引き返し、シエラだけを降ろすと再び飛び立った。 「よかったですわ〜、皆さん無事で。 パルマーが脱出ポッドを勝手に射出させた時はどうなるかと思いましたけど、ホンマによかった!」 ケット・シーはデブモーグリの上でぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねた。 「そうだ、あのふとっちょ野郎はどうした?一発ブン殴ってやらねえと気がすまねえぜ!」 シドは拳と手のひらを打ち合わせた。 「それなら安心してよ。 オイラが代わりにボコボコにしといてやったからさ。 」 レッドXIIIはニヤリと笑った。 「おっ、ありがとよ。 しかし、これでめでたしめでたしとはいかねえよな。 ロケットの打ち上げは成功したが、肝心のメテオを吹っ飛ばせなかったんじゃどうしようもねえ。 」 シドは力が抜けたようにどっかりと座席に座り込んだ。 「一度や二度の失敗でへこたれてる暇なんかないよ。 まだまだこれからなんだから。 」 メテオが依然として健在であると分かってからも、エアリスは落ち込んでなどなかった。 「例えメテオが手が届きそうなほどに近付いて来たって、私絶対に諦めない。 そうなったら今度は、バットでカーンと打ち返してやるだけだよ。 」 「う〜ん、エアリスならホントにやっちゃいそうなとこがコワイね〜。 」 ユフィが真面目くさって言うと、仲間達の間からドッと笑いが起こった。 「ところでクラウドはどうしたの?戻って来るなり医務室に担ぎ込まれたりして、どこか怪我でもしたの?」 ティファは訊いた。 「怪我じゃないんだけどね。 事情を聞いた一同がさらに大笑いしたところへ当の本人がやって来た。 「あ、クラウド。 もう起きてだいじょぶ?乗り物酔い治ったの?」 「クラウドまで乗り物酔いする体質だったとはね。 オイラびっくりだよ。 」 「お仲間だねえ、クラウド〜。 」 「乗り物酔いって回復魔法は効かないのかしら。 試してみる?」 「乗り物酔いに効く薬はない。 酔わないようにすることが肝心らしい。 」 「空の男の俺様には乗り物酔いなんざ無縁の代物でい。 」 「乗り物酔いにはコップの水を逆さから飲むといいって聞いたことあるぜ。 」 「ちゃいますよ〜。 それはしゃっくりの止め方。 」 青い顔をしたクラウドは、よろけるように手近な座席に座り込んだ。 「エアリスから話は聞いたが、お前元々乗り物に酔いやすい体質だったんだってな。 」 バレットはニヤニヤと今にも笑いが飛び出そうな顔で言った。 『元ソルジャーのクラウド』を演じている間の俺は、乗り物酔いする体質のことも忘れていたみたいなんだ。 」 「難儀なこっちゃなあ。 」 同情めかしてはいるが、ケット・シーは懸命に笑いをこらえている。 「それだけは忘れたままでよかったのにねえ。 」 ユフィの言葉にはいやという程の実感がこもっていた。 とうとう耐えきれずに仲間達は笑い出した。 「ロケット作戦が失敗して暗くなりがちだったけどよ、クラウドのおかげでそんな辛気くささもすっかり吹き飛んだなっ。 」 「あのな、俺の乗り物酔いは場を和ませるための隠し芸かっ。 」 肩を叩くバレットの手を、クラウドはふてくされ気味に払った。 「そんなに気にすることないと思うよ、クラウド。 」 エアリスは横からクラウドの顔を覗き込んだ。 「乗り物に弱いのもクラウドの一部でしょ。 これで100%、元のクラウドに戻ったってことだもんね。 まあ、乗り物酔いといってもユフィほどひどくはないし、それに自分よりタチの悪い乗り物酔い体質がいると思うと気が楽だ。 」 「あ〜っ、クラウドの裏切りモノ〜!仲間だと思ってたのに!こうしてやる〜っ!」 ユフィはクラウドの座っている座席をぐるぐると回転させた。 」 「へへ〜ん、ざまーみろ〜。 「アホの見本か、お前は。 」 バレットは呆れ果てて言い、周囲からはさらなる笑いが起こった。 「楽しそうじゃな。 」 ブリッジにブーゲンハーゲンが現れた。 「あ、じっちゃん。 わしをコスモキャニオンまで送り届けてくれんか?」 「それはかまわないけど、どうしたんだ、急に?」 「いやなに、ホームシックというヤツじゃよ。 胸を押さえてその場に崩折れる。 「じっちゃん!」 レッドXIIIが真っ先に駆け寄った。 」 「発作!?じっちゃん病気なの!?じっちゃん!」 応答はない。 ブーゲンハーゲンは意識を失っていた。 ブーゲンハーゲンの突然の異変に、一同は慌てた。 飛空艇内には一応の医務室が設けられてはいるが、常時医者が詰めている訳でもなく、こうした突発的な病には対処出来なかった。 彼らはすぐさまブーゲンハーゲンをコスモキャニオンへと運んだ。 ブーゲンハーゲンを彼の家の寝室に寝かせ、主治医の診察が終わるまでの間は、クラウド達にとって息苦しい時間だった。 「ブーゲンハーゲン様の体はここ数ヶ月の間に、ひどく弱っておられたんだ。 お前さんに会いたがっておられるよ。 」 「行って来いよ、レッドXIII。 俺達はコスモキャンドルのところで待ってるから。 」 クラウドに促され、レッドXIIIは部屋へ入って行った。 ブーゲンハーゲンは目を閉じてベッドに横たわっていた。 まだ顔色が悪い。 レッドXIIIが近付くと、気配を察して目を開けた。 」 「何を景気の悪い顔をしておるんじゃ、ナナキ。 辛気くさいヤツじゃのう。 」 ブーゲンハーゲンは笑って軽口を叩いた。 「ゴメンよ、じっちゃん。 歳じゃよ。 わしの体もいい加減骨董品じゃ。 ガタが来て当然じゃよ。 ホーホーホウ。 」 ブーゲンハーゲンはポンポンとレッドXIIIの頭をなでた。 」 「旅?」 「ああ、旅じゃ。 誰もがいつかは赴く旅じゃよ。 お前が成すこと、お前が目指す未来。 わしはそれをずっと見続けておる。 何か言葉を発したら、それと同時に涙がこぼれ落ちそうだった。 だが、泣きたくはなかった。 じっちゃんもオイラの泣き顔なんて見たくないだろうし、また見せたくもない。 何か言葉をかけてやらなければとは思うが、それ以上に涙だけは見せてはならないと思った。 そんなレッドXIIIを、ブーゲンハーゲンは優しい目で見つめた。 わしはお前を誇りに思うよ。 」 「オイラは戦士セトの息子、戦士ナナキ。 その穏やかな微笑みのまま、ゆっくりと目を閉じた。 コスモキャンドルの前に集まっていたクラウド達の前で、その炎が突然何かに反応するように激しく燃え上がった。 クラウド達は何かを語るように揺れ動く炎を、厳粛な面持ちで見つめた。 しばらくして、レッドXIIIが戻って来た。 今回みんなと旅したことがよほど気に入ったんじゃないのかな。 今度は気ままに一人旅をしてみるって。 それじゃ、どこかで会えるかもしれないな。 いつかまた出会うための旅。 ブーゲンハーゲンが向かった旅はそういう旅だと俺は思うよ。 その夜、コスモキャンドルの周りに村人達が集まった。 彼らはブーゲンハーゲンにまつわる思い出を語り合った。 愉快なこと、感動的なこと、取るに足らない些細なこと。 話は溢れ出る泉のようにいつまでも尽きなかった。 まるでその場にブーゲンハーゲンがいるかのように、生き生きと話が紡ぎ出される。 これがコスモキャニオン流の送り方だった。 クラウド達もその集いに参加していた。 しばらくして、その輪から一人ヴィンセントが離れた。 ヴィンセントは広場から少し離れた高台に昇った。 そこからは広場全体が見渡せた。 人々の話し声を遠くに聞きながら目を閉じた。 閉め出していた思い出がゆっくりと流れ込んでくる。 」 彼女が自分を呼ぶ声が聞こえる。 もう随分長い時間その声を聞いていないが、それでも彼女の声ははっきりと思い出せた。 ふふっ、しょうのない人ね。 」 彼女は白衣の裾をはためかせてくるりと一回転すると、にっこりと笑った。 彼女の名は、ルクレツィア。 彼女との思い出が早回しの映画のように、次々と頭の中を流れる。 彼女の目はキラキラと輝いていた。 私が望むのは、君の幸せだけなのだから。 「ヴィンセント、あなたは分かってくれるわよね。 彼はこの実験にすべてを賭けている。 私は君に幸せになってほしいだけだ。 あんな非人道的な実験に君がその身を委ねるなど、許せるはずがない。 しかし私は、彼女を止めることが出来なかった。 力尽くでも、例え神羅を敵に回してでも止めるべきだった。 私なら、それが出来たはずだ。 ふいにヴィンセントは現実に引き戻された。 背後に異様な気配を感じた。 反射神経の命ずるままに、体をひょいと脇にずらす。 その横を握り拳がブンと素通りした。 「おっと、はずしちゃった。 」 ヴィンセントの背後に立っていたのはエアリスだった。 どうやら彼の頭にゲンコツを叩き込むつもりだったらしい。 「なんのつもりだ、エアリス?」 「自分の世界に引きこもった人を呼び戻すには、この方法が一番なの。 どうしてすぐにルクレツィアさんを探しに行かないの?」 ヴィンセントは驚いた表情でエアリスを見上げた。 立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど、聞いちゃったの。 飛空艇のそばであなたとタークス達が話してるのを。 」 ティファは少々バツが悪そうに肩をすくめた。 「私達と一緒にここまでやって来たのは、ルクレツィアさんに会いたかったからなんだよね?私達も手伝うから、探そ。 ね?」 エアリスはヴィンセントの腕を取った。 彼女を前にしても、何を言っていいのか分からない。 」 「特別なことを言う必要はないんじゃないかな。 ヴィンセントが今まで思ってきたこと、そして今思っていることを素直に話してみたらいいと思うよ。 」 それでもヴィンセントは立ち上がる気配を見せなかった。 何事か考えるようにエアリス達から目をそらし、広場に集う人々に目を向けた。 エアリスは再度口を開きかけたが、ティファが首を振りそれを止めた。 彼にもう少し時間をあげよう。 ティファの目はそう言っていた。 広場を見つめるヴィンセントの視線は、風に舞う木の葉のように頼りなげに彷徨った。 その視線が、ある一点で止まった。 ヴィンセントが全身で息を呑むのが、隣にいたエアリスにも感じられた。 エアリスは彼の視線の先を追った。 そこには、コスモキャンドルの前で佇む一人の女性がいた。 「あの人ね?そうなのね?」 「え?何が?」 1人事情の飲み込めていないティファが、きょとんとして聞き返した時にはすでに、エアリスは高台から駆け下り始めていた。 そのあとを弾かれたように立ち上がったヴィンセントが追う。 しかし、コスモキャンドルの前にエアリス達が着いた時には、彼女の姿はすでに人混みに紛れてしまっていた。 「どこに行っちゃったの?」 エアリスは周囲を隈無く見回したが、見つけることは出来なかった。 同じように辺りに目を配っていたヴィンセントが、やがて何かに引かれるようにして歩き出した。 「ヴィンセント?」 エアリスは彼のあとを追いかけた。 ヴィンセントは広場を抜け、村の裏手へと回った。 谷へ降りる岩だらけの道に入り込み、黙々と歩いて行く。 途中から水の流れる音が聞こえはじめ、唐突に彼らは滝の前に出た。 「コスモキャニオンに滝があったんだ。 」 訳が分からないまま2人のあとについて来たティファが、意外そうに言った。 それほど大きな滝ではない。 しかし、この小さな滝は岩山ばかりで乾燥したコスモキャニオンにあって、見る者に心地よい潤いを与えてくれた。 夜空の明るい月の光に照らされて、流れ落ちる水がキラキラと輝いている。 エアリスは滝から少し離れた開けた場所に、小さな家が建っているのを見つけた。 「あそこに家がある。 水のある場所に住みたいとよく言っていた。 ここに着いてから村人に水辺のそばにある家はないかと尋ねたら、この場所を教えてくれた。 」 「そっか。 彼女の居場所の見当はもうついてたんだね。 」 出し抜かれたと言いたげに、エアリスは苦笑した。 3人は水辺のそばに寄り固まって、待ち人の帰りを待った。 「ね、ヴィンセント。 この際だから訊いてもいいかな。 やっぱり、宝条博士に何かされたから?」 エアリスの質問にヴィンセントはしばらく黙り込んでいたが、やがて重い口を開いた。 その計画の最終段階となる実験が、母親の胎内にいる胎児にジェノバ細胞を組み込むというものだった。 そして、その被検体となったのがルクレツィアだ。 」 「彼女のお腹にいた赤ちゃん、それがセフィロスなのね。 」 ティファは失言をしてしまったと口に手を当てた。 その実験を行っていた当事者は、他ならぬエアリスの父親なのだ。 「気を使わなくていいよ。 ホントのことだもの。 」 エアリス努めて平静を装って言ったが、その表情にはわずかばかりの曇りがあった。 「あの当時、ガスト博士はジェノバを古代種と信じていたのだから、彼ばかりを責めることは出来ないだろう。 彼は本当にいい人だったよ。 それは忘れないでくれ。 」 ヴィンセントの言葉に、エアリスの心は幾分軽くなった。 「だが、ジェノバが古代種であれなんであれ、そんな実験にルクレツィアの身が使われるなど、私にはとても耐えられなかった。 ルクレツィアを止めようとしたが、彼女の意志は固く決心を翻させることは出来なかった。 私は責任者であるガスト博士に直接談判に行こうとした。 ガスト博士なら話せばきっと分かってくれる。 実験を中止してくれるだろうと思った。 しかし、宝条に博士との面会を妨げられた。 そこで私達は言い争いになり、怒りに駆られた宝条に私は撃たれた。 次に意識を取り戻した時には、何もかも終わっていた。 セフィロスを産んだルクレツィアは姿を消し、宝条らプロジェクトのスタッフは別の研究所へと移動していた。 」 「えっ?」 ティファは思わず声を上げた。 「こんな特殊な力を身に付けさせるには、ジェノバの力を使わなければ不可能だろう。 そして、ルクレツィア。 彼女の体にも実験によるジェノバの影響が出ているはずだ。 確かに歳格好は自分達とそれほど変わらなかった。 3人がさきほど歩いて来た道から、一人の女性が現れた。 長い髪のほっそりとした女性。 同性のエアリス達から見ても美しい顔立ちの人だった。 しかし、青白い月の光に浮かび上がるその姿は、今にも消え入りそうなほどに儚く感じられた。 女性は人の気配に気付いて立ち止まった。 「ねえ、私達がついて来たのってまずくなかったかしら。 そして、その後ろに佇むヴィンセントに気付いた。 ヴィンセントはゆっくりと前に進み出た。 月の光のもと、ヴィンセントの顔は彼女にはっきりと見えた。 」 「私は、生きている。 」 ルクレツィアはゆっくり手を伸ばし、トゲのある花に触れるような怖々とした手つきで彼の頬に触れた。 しかしその直後、その表情に疑念とわずかな怯えの色が混じった。 」 ルクレツィアはハッとして頬に触れた手を引いた。 」 「宝条博士もここへ来たの。 つい最近のことよ。 その仕種には少しばかり寂しさが感じられた。 「あの人とはあれ以来会ってないわ。 だから驚いたの。 ちょうど、今のあなたみたいにそこに立って、私の帰りを待っていたわ。 彼は何も言わなかった。 そして、去って行った。 」 ルクレツィアは歩み去って行く宝条の影を追うように、視線を動かした。 ヴィンセント、私ね、最近よく夢を見るの。 「でも、あの子を私の子供と果たして呼べるのかしら。 だけど、夢を見るの。 あの子が必死に助けを求めている夢。 あの子は、セフィロスはもう5年も前に死んでいるはずなのに。 でも、私は感じるの。 セフィロスがこの世のどこかで今も生きているって、そう思えてならないのよ。 ジェノバ細胞の力で簡単には死なない、死ぬことの出来ない体なんだから。 」 「聞いてくれ、ルクレツィア。 ルクレツィアから目を逸らし、言葉を探すようにして彷徨わせた視線がエアリスを捉えた。 エアリスはただ黙って頷いた。 」 ヴィンセントの言葉を聞いても、ルクレツィアの表情は変わらなかった。 驚いていない訳ではない。 信じていない訳でもない。 その言葉は彼女にとってあまりに唐突過ぎたからだ。 「セフィロスは生きている。 「セフィロスを殺すの?」 ヴィンセントの台詞の先をルクレツィアは鋭く察した。 とてつもなく重い物を背負ったように、ヴィンセントはぎこちなく頷いた。 だが、その肩が小さく震えていた。 「君には知る権利があると思った。 だが、君に隠し事をしたくなかった。 ちゃんと話さなければならないと、そう思ったんだ。 すべてのことから逃げて、耳を塞いでいたのは私の方なのだから。 」 振り返ったルクレツィアは、泣きながらも微笑もうとしていた。 涙なんてとうの昔に枯れ果てたと思っていたのにね。 」 ヴィンセントの背後に近付いたティファが、そっと彼の手にハンカチを握らせた。 受け取ったヴィンセントは、ためらいがちにそれをルクレツィアに差し出した。 ヴィンセント、私はこれまで過去を後悔しないと心に決めて生きてきたわ。 でも、それは自分の心に対するごまかしだった。 あなたに会って、それがよく分かった。 こんな体だし、同じところに長くはいられない。 人との関わり合いも出来るだけ避けてきた。 後悔しないと言いながら、本当は心の奥底でずっと悔やみ続けていたのよ。 出来ることなら死んでしまいたかった。 でも、私は死ねない。 「あの、ルクレツィアさん。 」 エアリスはためらいがちに切り出した。 見ず知らずの赤の他人である自分が、口を挟む場面ではないことはよく分かっていた。 だが、どうしても彼女に尋ねてみたいことがあった。 「セフィロスを産んだこと、後悔してるの?」 長い間があって、ルクレツィアは答えた。 どんな形であれ、あの子は私の子供だもの。 私が後悔しているのは、あの子を産んだことでも、こんな体になってしまったことでもない。 私はなぜあの時、セフィロスを奪って逃げなかったのか。 似ている様な気がする。 私達親子とこの親子は。 母は私を連れて逃げ、この人はそれが出来なかった。 その行動に大きな差はあるけれど、子を思う気持ちは同じなのだ。 ルクレツィアは握りしめている物がハンカチであることに、ようやく気付いたように涙を拭いた。 「本当にすまなかった、ルクレツィア。 突然現れて、君を悲しませるようなことばかり言ってしまった。 その視線を先に逸らしたヴィンセントは、彼女の脇をスッと通り過ぎ、来た道を戻って行った。 置いてけぼりにされそうなったエアリスとティファが、そのあとに続いた。 「いいんだ。 一度の再会で長い時の溝が埋められるとは思っていない。 エアリスは首を振った。 確かに時間は必要だろう。 「今度は、あの人の方から会いに来るような気がする。 」 エアリスはティファだけに聞こえるように言った。 ティファはきょとんとして見返した。 3人が広場に戻って来た時には、空にはうっすらと白い光が射し始めていた。 一晩語り明かした人々が、コスモキャンドルの周りで雑魚寝していた。 中にはまだ話をしている人もいる。 「おはようさんです〜。 お三方ともどこに行ってらしたんです?」 村人と話をしていたケット・シーが、三人に気付いて手を振った。 仲間達の中で徹夜をしたのはケット・シーだけのようだ。 「ちょっと、ね。 みんな寝ちゃってるね。 」 「ホンマ、こんな固い地べたの上でよう眠れるもんですわ。 ま、さすがといえばさすがですな。 」 何がさすがなのか分からないが、ケット・シーは陽気に笑った。 エアリス達はやや不安げに彼の次の言葉を待った。 「こら大変や。 「は、はい。 ミッドガルを目指して現在進行中やそうです。 」 「こうしちゃいられねえ!あそこにはマリンがいるんだ!ミッドガルに行くぞ!こらっ、シド、起きろ!早いとこ飛空艇のエンジンかけやがれ!」 バレットは寝転がっているシドを蹴飛ばした。 乱暴に叩き起こされたシドは寝ぼけ眼で不機嫌そうにしていたが、ウェポン襲来の話を聞くと眠気もすぐに吹き飛んだ。 全員が飛空艇に乗り込み、いざ出発という時になってティファが叫んだ。 「待って待って!ストップ!」 「何が待ってなんだよ、ティファ。 その彼女がここにいるのか?」 昨夜の出来事を知らないクラウド達には、寝耳に水の話だった。 「ヴィンセント、早く行って!あの人、あなたに会いに来たんだからっ。 」 エアリスはヴィンセントをブリッジから強引に連れ出した。 二人に追い立てられるようにして飛空艇を降りたヴィンセントは、ルクレツィアの元へと向かった。 「飛空艇が来ているというから、もしかしたらと思ったの。 ミッドガルにウェポンが近付いている。 放ってはおけない。 それも、セフィロスのせい?」 「分からない。 だが、無関係とも言えないだろう。 」 「ヴィンセント。 」 背を向けかけたヴィンセントを、ルクレツィアは呼び止めた。 「宝条博士が私に会いに来た時、これを置いていったの。 」 ヴィンセントは訝しげに振り返り、ルクレツィアが手に持っている小瓶を見つめた。 「博士が開発した薬。 これを使えば、私でも死ぬことが出来るそうよ。 」 ルクレツィアはヴィンセントに小瓶を手渡した。 「宝条博士に会ったら、これを返しておいて。 引き留めたりしてごめんなさい。 」 「ルクレツィア!」 立ち去ろうとするルクレツィアを、今度はヴィンセントが呼び止めた。 あの子は助けを待っているの。 」 ルクレツィアは振り向いた。 微笑んでいる。 朝靄の中で霞むその姿は、悲しげな聖母の肖像のようだった。 「それじゃあ、気を付けてね、ヴィンセント。 ルクレツィアは無言のまま彼に背を向けた。 ヴィンセントの心が落胆の影に覆われようとした時、微かに、本当にわずかばかりの仕種で彼女は頷いた。 ルクレツィアを見送ったヴィンセントは飛空艇へと戻った。 「ヴィンセント。 」 昇降口ではエアリスとティファが待っていた。 すべてはこれからなんだ。 」 笑みを浮かべて自分を見ている2人の視線を避け、ヴィンセントは足早にブリッジの方へ歩いて行った。 」 ティファは呟いた。 エアリスはルクレツィアが言った言葉を思い出していた。 ザックスも同じ様なことを言っていた。 何か大切なことを見落としている。 そんな焦りにも似た思いに駆られた。 エアリスの思考は、走り込んで来たバレットの怒鳴り声で中断された。 「何してんだ!出発するぞ!ドア閉めろ!」 「は、はーい!」 慌ててティファは入り口の開閉ボタンを押した。 飛空艇は空高く飛び立った。 目指すはミッドガル。 魔晄に彩られた虚栄の都市。

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