入間 銃 兎 夢 小説。 肖像【入間銃兎】

肖像【入間銃兎】

入間 銃 兎 夢 小説

誰かに愛されるというのも、悪くない。 理鶯といると、自分が愛されているのだと感じる。 誰も人は信じられないと思っていたが、理鶯なら信じてみてもいいのかもしれないと、どこかで思ってしまう自分がいる。 ふと隣を見ると、理鶯が微笑みながら、 「小官は貴殿を愛しているぞ。 」 と言う。 私もです、と言いかけて驚く。 自分が恋をしているのだと気付いて。 そして、正気に戻る。 こんな汚れた自分に恋など必要ない。 恋をすることなど、許されるわけがない。 俺は、そういった邪魔な感情を全て捨てて、麻薬をこの世から消すと誓ったんだ。 …理鶯といると、自分が自分でないような感覚に陥る。 自分が…幸せになってもいいような…そんな感覚。 「幸せになっていいわけないだろ。 」 もう一人の自分が耳元で囁く。 「見てみろよ。 もう手遅れなんだよ。 お前の手は汚れてる。 」 手元を見ると、血で染まった自分の手があった。 いつの間にか理鶯が目の前にいる。 そして、 「すまない。 貴殿とはもう、居られない。 」 と、理鶯が言った。 待ってくれ。 前が見えない。 隣を歩いていたはずの理鶯は、手を伸ばしても何処にもいない。 ずっと傍にいるって言ってくれたのに、何で一人で行っちゃうんだよ。 待ってくれ、置いて行かないでくれ。 俺を一人に……しないでくれよ… 「理鶯…。 」 そう言って、手を伸ばす。 その手は先程と同じく空を切る。 「………理鶯。 ……理鶯。 …理鶯。 」 返事をしてくれ。 もう一度その優しい笑顔で、心地よい低い声で、返事をしてくれ。 まだ、俺はお前に言えてないんだよ。 一人だけ告白して満足するなよ…。 「理鶯、何処にも行くな!俺の傍にいてくれ!」 「小官は此処にいるぞ、銃兎。 」 それまで空を切っていた手が、握られた…気がした。 何故今まで気が付かなかったのか。

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肖像【入間銃兎】

入間 銃 兎 夢 小説

かっこいい銃兎はいません。 ご了承ください。 潮騒の遠い音がよく聴こえる昼下がりだった。 ヨコハマの湾岸沿いを走る車の運転席に入間銃兎はいた。 車内に響く洋楽のナンバー、右手はハンドルに緩やかに添えられ、口元に咥えたタバコの煙は吸い込まれるようにして、開け放たれたドアガラスの向こうに消えていく。 ふと横を見れば、春空の爽やかな青の下にある水平線が太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。 完全無欠な午後だった。 この日がな一日のドライブを銃兎は愛している。 そんな平穏を切り裂くように、けたたましい着信音を立てながら一本の電話が入った。 愛曲が停まり、車のディスプレイに浮かぶのは、もう見慣れた携帯番号。 銃兎の頭の中にガンガンと不協和音が響きだす。 この番号から電話がかかる時はろくな事がない。 ましてや、こんな昼時にかけてくる事なんてほとんどないため、嫌な予感しかしない。 どうせクソみてェなことは確かだろうが。 溜息もつけないままに銃兎は電話を取った。 愛すべき完全無欠な午後は、呆気なく終わりを迎えた。 「なんですか、左馬刻。 緊急だ。 すぐ事務所来いや』 「お前……また何したってんだよ」 『説明してる時間はねェ。 嵐のような出来事だった。 無視してやりたい気持ちも沸くが、ビジネスパートナーでもありチームメイトだ。 胸騒ぎを抱えながら銃兎はハンドルを180度切った。 元来た道を戻り、高速で雑多な日常へと帰っていく。 道すがらまた電話をかけた。 「理鶯、緊急です。 いますぐ左馬刻の事務所に来てください」 『了解した』 淡々とした理鶯の応答を切ると、そこは無音だった。 洋楽のナンバーも、もう耳に入らない。 そう思った。 **** 「おい、それは何だ」 それから間もなくした時間、銃兎の姿は左馬刻の事務所にあった。 大層機嫌が悪いらしい。 コメカミには青筋が浮かび、瞳孔はキレている。 「あ、見て分かんねェか? 迷子だよ」 「テメェ、しょっぴかれてェのか」 「おいおいそんなムキになんなって、な? ラブアンドピースで行こうぜ銃兎ォ」 ケラケラと笑う左馬刻のその姿に殺意すら沸いてくる。 『どうか無事でいてくれ……』なんてメロドラマみたいな台詞を思った少し前の自分に心底吐き気する。 こっちの気持ちも知らねぇで、コケにしやがって! 「テメェはいっつもいっつも! ぶさけてんじゃねェぞ、この野郎ォ!」 「あァ、なんだァ?逆ギレかよ銃兎ォ! あんま大声出すなって……こいつがビビんだろ?」 左馬刻が目を流したその先、そこには一匹の白色のウサギがいた。 二人のやり取りに身を縮め、怯えているように見て取れる。 そう、左馬刻が銃兎を呼び出したのは他でもない、このウサギのことだった。 どこからか脱走したのか、この事務所へと迷い込んできた。 チンピラとゴロツキの扱いには慣れているヤクザも、警戒する小動物にはお手上げだったらしい。 ……なぜか(天の都合上)。 「迷子はお巡りサンに連れてくのが一番だ。 そうだろ?お巡りサン」 「バカ野郎、担当外だ! 迷子センターにでも連れていけ!」 「ヤクザが、ンな場所に出入りできっかよバァカ。 持て余してんだよ、なんでもいいから引き取ってくれや」 「なんで俺がッ」 「いいと思うぜェ。 ウサギがウサギ飼うなんて傑作じゃねェか!」 「テメェ……今なんつったコノヤロォ!!」 「あァ!? 何だァ銃兎ォ、やるっつーのかァ!?」 怯えるウサギのことなんてすっかりと忘れ、ブチギレる銃兎とそれを揶揄う左馬刻の構図でマイクが握られた。 このままラップバトルが始まれば、ただでさえ耳のいいウサギには精神干渉が強すぎる。 死亡は必至だ。 毒島さんがお見えです」の声と共に、長身の軍人の姿が見えた。 「り、理鶯……」 呼び出した張本人のくせにして、銃兎はこの流れはまずいと思った。 ここにはいるのだ、……食材が。 「何事かと思ってきたが、また二人は腹が減っているのか。 ……む、ウサギか。 小骨は多いが茹でて食うと美味いらしい。 少し待っていろ」 「まあカラスやネズミよりは美味そうだな」 ウサギ、九死に一生を得ず、また絶体絶命のピンチである。 左馬刻の事務所で怯える一匹のウサギのもとへ理鶯は寄って行った。 迷彩服の腰元には、いつも携帯しているサバイバルナイフの存在。 それで調理されていくウサギの姿が銃兎の目の中に浮かんだ。 ウサギに愛着があるわけではない。 しかし、兎の名を冠する身として、食材にされるのをまざまざと見るのは。 御免こうむりたい。 「や、やめてください理鶯……」 「む?銃兎、ウサギは嫌いか?」 「い、いえ……。 そのウサギですがね、迷い込んだところを、今しがた左馬刻から貰い受けたところだったんですよ」 「おーおー、そうだったそうだったァ。 忘れてたわ。 悪ぃな理鶯ォ、そいつは勘弁してやってくれや」 白々しく同意する左馬刻はゲラゲラと笑っている。 ……この野郎、覚えてろ。 絶対いつかしょっぴいてやる…。 「そうか。 貴官は慈しみのある人物なのだな。 では、他の食材を探すとしよう。 先程、近くでトカゲを見つけたのだが……」 「い、いえ! 私達は腹が減ってる訳ではなくてですね……」 そんなふうに、いつも通りのMTCのやり取りが始まった。 銃兎が左馬刻の事務所を後にする頃には、ウサギと言う名の大荷物を持って帰ることになっていた。 普段は女を乗せるはずの助手席にウサギが入ったダンボール箱を置く。 彼なのか彼女なのか分からない一匹のウサギ(ネタバラシをするならば彼女)は、所在なさげにダンボール箱の中をウロチョロと忙しなく駆け回り、ダンボールの塀の先から自分の居所を確認しようと必死だった。 思ったよりもふわふわだった(当の白ウサギは突然降りかかった大きな手に死ぬほど怯えていたが)。 **** とは言ったものの、この状況を一体どうしたものか。 銃兎はアパートの自室に置かれたダンボールのなかで動くウサギを見ながら頭を悩ませていた。 勢いで引き取ったものの、動物を飼うなんて、とてもじゃないが考えられない。 仕事で忙しい時には家に帰れないなんてザラだ。 家にいたところで寝に帰っているようなものだ。 とても責任を持って飼える気はしない。 ……とりあえず明日、署に行って貰い手がいるか当たってみよう。 入間銃兎の頼みとあれば、適当な女連中から少なからず声はあがるだろうと予測する。 それだけ甘いマスクと品性を保ってきた自負はある。 銃兎はひとしきり見通しを立てると、スマフォで「ウサギ 飼い方」で検索をかけた。 とりあえず今日はそこらへんの無害そうな草をむしってエサにしてみたが、まぁ数日は共にするだろう居候にどう宿を提供していいのか分からなかったからだ。 ケージで過ごさせるようにとか、チモシーなんて名前の藁をやれとか、一日に一時間は遊ばせろとか、ちゃんとブラシで毛を梳いてやれとか、そんな無理難題が書いてある。 とりあえず、明日の朝にペットショップにでも行って通り一遍のものを買い揃えてやろう。 どうせ貯金の遣い先もないのだし、それくらいの出費は可愛いものだ。 今ある案件も適当に午後から出署すれば充分だし、問題があったところでなかったことにすればいい。 白ウサギは、またもやダンボールの隙間から見える世界を少しでも目視しようと、後脚を立て背を伸ばしている。 手をかけようとした前足は、ダンボールの絶壁に阻まれてスルスルと床へ落ち、また少し丸まっては背を伸ばす、という行為を繰り返していた。 「……外に出たいんですか?」 彼女は銃兎の部屋を見渡そうと必死だ。 「ちょ、ちょっと待っててください」 彼はそう言って洗濯物の中から少しくたびれはじめたタオルを取り出すと、ベッドの上に敷いた。 そして銃兎はウサギの身体をその手に包み、ひょいと抱え上げる。 銃兎の両手から少しだけはみ出る、とても小さな身体には生の柔らかな温もりで満たされていた。 それを銃兎はタオルを敷いた隣に置いた。 「………………」 彼女は見知らぬ世界に降り立つと、その場からあまり動くことなく周囲をキョロキョロと見渡していた。 どうやら相当引っ込み思案で臆病な性格らしい。 数分経つとようやく慣れたのか、二・三歩動きを見せて銃兎と手のほうへと擦り寄ってきた。 鼻先を押し付けてスンスンと匂いを嗅ぎながら安全かどうかの探索を続ける。 銃兎はその鼻先から眉間に向かって、中指で撫でてやった。 彼女がピクリと反応し、上を見上げて銃兎のほうを向く。 なんだか初めて視線が合った気がした。 「気に入りました?」 銃兎は自分でも気づかないうちに、ふっと笑っていた。 掻くようにして、その鼻筋を何度か撫でてやった。 まるでそこを押し付けるかのように、指先に吸い付いてくる白ウサギ。 銃兎が手を止めれば、置いた手とベッドの間の僅かな隙間に頭を突っ込み、《撫でろ》と言わんばかりの所作だった。 「こうですかね?」 銃兎はまたそこを撫でてやる。 うつらうつらとしてくるウサギの瞳。 その手を止めたら、また指を求めて頭を突っ込んでくるため、本当に撫でられたいのだろう。 年甲斐もなくキュンとした。 死語を使いたいくらいには可愛げがあった。 「フッ……」 銃兎の顔がニヤッとする。 数分それを続けてやると満足したのか、ぱっと姿勢を反転させ、銃兎の元を離れていった。 そして、またノロノロ足でベッド探索へと向かう。 色んなところをスンスンと嗅ぎながら、銃兎の匂いを照らし合わせる彼女。 そして、ぽろりと尻から丸いものが零れた。 真珠大の黒黒とした健康的なウンコだ。 「なっ!? 待て、俺のベッドでウンコすんじゃねェ!」 声を上げた銃兎に驚いて、彼女は布団から一目散に降りて、部屋にある戸棚の暗い隙間目指して逃げ込んでいく。 「このウサ公が!」 逃げ惑う小さな彼女を捕まえようと入間銃兎(二十九歳・独身)のアパートでは、「観念しろ!」とか「追い詰めたぞ……」とか「この野郎……ちょこまかちょこまかと!」などという台詞と共に真夜中の逮捕劇が行われたのであった。 そして数十分後、銃兎は部屋に無数に散らばったウサギの糞の処理をするはめになった。 **** 「入間さんどうしたんだ……」 「バッカ、俺に聞くなよ……」 翌日、ヨコハマ署にいる入間銃兎はまるで落ち着かなかった。 いつも冷静沈着を貫いている入間銃兎のソワつく様子に不安そうな同僚の声があがっているが、今の銃兎の耳には入って来ない。 普段は地獄耳なのに余程のことらしい。 午前中は(上司を脅しつつ)時間を作りペットショップに行って一通りのものをウサギのために買い揃えた。 ゲージに入れてやったし、水差しにも並々と水を注いだし、チモシーという名前の藁らしき食べ物も食べきれないほど詰め込んでやった。 夜中に帰っても問題ないだろうが、昨晩のウンコ撒き散らし事件が頭から離れず、気が気ではない。 時計を見るとまだ夕方と少し。 窓の向こうでは西日が少しずつ空を焼き初めてはいるが、まだ青色が色濃く残っている。 今日の定時の捜査報告で進展がなければ、早々に帰ってしまおう。 とてもじゃないが集中して仕事が出来る気がしない。 こんな日が来るなんて、まだ青臭かった頃に女に振り回された時以来だ。 死にたくなるような思い出が頭に甦りながら、銃兎は溜息を吐いた。 早く誰か飼い名乗りをあげてくれないものか。 交通局や人事部の若い女性に声はかけたものの、やはりこればっかりは二つ返事とはいかなかった。 少し経てば誰か見つかるだろうが、それまでは白い彼女の行く宛はなく、銃兎が煩わされる日々は続くのだ。 日が落ち切ってまだ数時間しか経っていない頃、銃兎は家の扉の前にいた。 こんなに早い時間に帰るだなんて働き始めてからというもの、初めてに近いかもしれない。 俺らしくもない……。 そんなことを思いながら、ドアを開いて玄関を潜る。 そんな言葉が脳裏を過ぎったと同時に、恐ろしい悪臭を吸い込んだ。 「なんだこの破壊的な匂いは……!?」 まるでガス漏れでもしたのかというような匂いだ。 急いでウサギの元へ駆けつけると、彼女はケージの中に立って黒々とした瞳で銃兎を見つめ返していた。 酷いアンモニア臭が立ち込めている。 黄色く白濁したオシッコの跡がゲージの隅に引っかかっているのを銃兎は見つけた。 「コノヤロォ……」 生理現象に文句を言っても仕方はないが、この悪臭には鼻が折れそうだ。 帰宅早々、ケージ下のトレイを開きトイレシートを替えてやる銃兎。 ……はやく厄介払いしてしまわねば。 そんな事を思いながらいる銃兎の傍に白ウサギはやってきて、《エサくれ!》と叫ぶようにケージに張り付いていた。 **** それから一週間も経たないうちに銃兎が家に帰る頻度は各段に増えた。 白いウサギがいる生活も大方慣れてきた。 運動不足はストレスの原因にもなるため、大きめの囲いを設えてやったし、だいぶトイレの位置も覚えてきたのか粗相することも減ったため、一部を除いて部屋の中も解放してやった。 どうやら彼女は臆病で引っ込み思案で、甘え上手で物分りのよい賢い女らしい。 ある夜、銃兎がキッチンに立ちリンゴを剥いでいると、彼女はひどく落ち着かない様子を見せた。 甘い匂いに刺激されたのか、囲いの向こうからじっと銃兎を見つめ、今にも涎が出るのではないかというほど口元を動かし鼻をひくつかせている。 「欲しいですか?」 そう声をかけた銃兎に向かって、前足を伸ばして近寄ろうとするが囲いが阻んでスカスカと宙を掻く。 その仕草が可愛らしくて、気づけば 「しょうがないですね、少し待っていてください……」 と呆れ返るような溜息を吐きながら、置いていたスマフォを手に取ると「ウサギリンゴ 食べさせてもいいか」と検索をかける。 また銃兎の可愛らしい履歴が増えるが、もうほとんど日常になっていた。 どうやら生の食材はあげすぎると水分が多すぎて腹を壊す原因になるそうだが、少量ならば問題ないとのこと。 「ほーら、どうぞ」 リンゴの欠片を必死で追う彼女を、少し宙で追わせる意地悪をしながら食べさせてやる。 彼女の食べっぷりときたら、それはもう猛烈な勢いで、銃兎の中にあったらしい母性が擽られた。 一瞬でなくなったリンゴに気付き、《まだ?まだないの? 次は?》と訴えかける眼差しが向けられる。 「今日はそれで終わりです」 そう言いながら銃兎が自分のリンゴを齧った。 彼女がまた手を伸ばす。 「お前のじゃねェよ」 その銃兎の顔はどんな人にも向けられない程穏やかだった。 **** 「よォ、ピョン吉まだいんのか」 深夜、左馬刻が銃兎の部屋を訪ねてきた。 白ウサギと生活を初めて、もう二週間ほどが経っていたが、彼女はまだ銃兎の部屋にいるらしい。 その暮らしぶりが気になったのか、左馬刻が野次馬的に呼び鈴を鳴らしたのだ。 ピョン吉なんてネーミングセンス皆無の発言は無視だ。 「餞別」 左馬刻はサンタクロースが持つような大袋に詰められた大量のニンジンを床に置いた。 ざっと百本はかたい。 嫌がらせか。 「ウサギにそんな生野菜ばっかやるんじゃねえ!」 「ウサギったらニンジンは常識だろ」 「バカヤローが! 腹壊すんだよ!」 「そうなのか。 ……じゃぁ銃兎が齧ってりゃいいだろ。 そんな変わりゃしねェし」 「テメェ……しょっぴくぞコラァ!」 その日から銃兎の家では、野菜スティックしか食べるものがなくなった。 それからまた少しの時間が流れれば、ピョン吉(仮)と過ごす日常も当たり前に近いものになっていった。 家のドアを開けばケージから飛び出し囲いの端で銃兎の帰りを迎える彼女。 《外に出して出して!》と訴える彼女を抱き上げ、銃兎の膝に置いやれば《撫でろ》と手の下に潜り込んでくる。 満更でもない気持ち良さげな表情は、仕事に疲れた銃兎の心を確かに癒していた。 掃除をしようと囲いの中に入れば、足元をウロチョロと動き回って《遊んで、遊んで!》と訴えてくるお転婆な一面も見せてきた。 「はいはい」 銃兎からこぼれる声は優しい。 彼女はどうやら、臆病で引っ込み思案で甘え上手で物分りのよくてお転婆な一面も持つ、誰より銃兎が大好きな可愛らしい女だ。 そのおかげか、銃兎は確実に家に帰る回数が増えたし、無線のペットカメラを導入したおかげでスマフォを構う時間も増えた。 「入間さん、彼女でもできたんですか?」 喫煙所で同僚にそんなことを尋ねられる。 「なんでです?」 「だって最近よく携帯見てられるんで」 「あぁ……家に小さい居候がいるので、ちょっとね」 「居候ですか?」 「ええ、白いウサギですがね」 我ながらだいぶ深入りしている自覚はあった。 初めは一時の宿を提供するだけの係だと思っていたし、必要最低限の生活環境があればいいと思っていたはずだ。 元を正せば、ただ単純に兎のスプラッタが見たくなかっただけの理由で引き受けたに過ぎない関係だった。 けれど、彼女のいる生活が中心になってみれば案外と得るものもあった。 元々彼の面倒見のよい性格も合わさって世話をするのはさして苦ではなかったし、振り回された見返りに極上の癒しも与えられた。 これはさすがに人間の女には到底提供しがたいものだ。 けれど、それも預け先が決まるまでの話。 彼らの関係は期間限定のものだった。 銃兎が同僚と煙草を吹き交わした翌日、とある女性が預け先に名乗りをあげた。 それは地域局に所属する女性で、人当たりのよさそうな柔らかい雰囲気を醸していた。 以前からペットを飼おうと考えていたらしい。 どこからどうみても好印象のその振る舞いに、特に断る理由も沸かなかった。 これでようやく厄介払いが出来る。 きついアンモニア臭に悩まされなくていいし、スーツが獣臭くなることもない。 ウンコを追いかけ回しながら回収しなくたっていい。 夜のデートだって思う存分堪能できるし、なんならホテルに泊まったとしても気兼ねない。 その安堵に銃兎は溜息を落としたはずだった。 「じゃぁ引き取る日ですが……」 そこまで言葉にしたとき、ふと白いウサギが手の平を押しやって額を擦り付けてかる感覚が手に宿った。 《撫でろ》と言う彼女。 指に生暖かい命の温もりを感じる。 あの思ったよりもフワフワな感触を銃兎は思い出した。 目の中に白ウサギが駆け寄る姿が浮かんだ。 その黒黒とした眼差しが銃兎を呼ぶ。 《おかえり!》と。 「入間さん?」 「あの、すみません……やっぱりこの話なかったことにしてもらってもいいですか?」 「いいですよ。 愛着沸いちゃったんですね」 「いやはやすみません……」 「大丈夫ですよ。 気になさらないで。 きっとウサギちゃんも入間さんの家に慣れてらっしゃるでしょうし」 改めて言われると恥ずかしいものがあるが、不思議と晴れやかな気分だった。 まるで、そうだ、休日に湾岸線をドライブしているような、そんな気分。 「写真とかあるんです? 名前は?」 「名前か……考えてなかったですね」 「もう入間さんの家の子なんだから、つけてあげなきゃですよ」 「そうですね……」 ふと浮かんだその名前。 それは銃兎の頭の中に降ってきたひとつのインスピレーションだった。 **** 今日もヨコハマ署は忙しなく人の往来で溢れている。 どうやらずっと追っていたヤマに進展があり、捜査も大詰めだ。 銃兎は夜中のヨコハマの街に浮かぶ星の下で煙草を吹かしながら、とある電話番号をコールした。 通話が始まれば、相手が応答する前に要件をいってしまう手法を使おう。 彼の常套手段をたまには真似したところで罰は当たらないだろう。 「ア?」 不機嫌な声が電話の向こうから聞こえた。 「おい左馬刻、お前うさまるの世話しとけ」 「はァ? なんで俺様が」 「今日帰れそうにねーんだよ、鍵の在りか教えっから世話しろ。 元はと言えばお前が厄介払いしたんだろ」 「溺愛じゃねェか。 ……まぁ面白いからいいけどよ」 左馬刻は案外あっさりと了承した。 電話の向こうで煙草の煙を吐く左馬刻の息遣いが聞こえたあと、クックッと喉を鳴らしながら笑い出す声が聴こえてきた。 「つーかお前、うさまるはねェわ」 「ピョン吉よりゃマシだ」 銃兎もヨコハマの空に煙草の煙を吐き出した。 ネーミングセンスが壊滅的なのはお互い様だ。 **** また数日が経った頃、左馬刻から呼び出しがあった。 今度は事務所ではなく、ヨコハマの大通りに迎えにこいとのお達しだった。 人も車の往来も激しい雑踏の一角に車を横付けしながら、銃兎は左馬刻を待った。 ハンドルに気だるく手をかけ、口には煙草を咥えながら。 どうせまたくだらない用事なことは間違いない。 早く終わらせて仕事に戻りたいのだが……。 そんなことを思いながら吐き出した煙が車内に漂う。 暫く雑踏を眺めていれば、その中から真白な男が現れた。 外行きの服装なのか、白いアロハの上には毛皮のコートが羽織られ、大きめのサングラスに隠れた表情は読み取れない。 左馬刻は銃兎を見つけると当然のように助手席へと上がり込み息つく間もなく話し出す。 「銃兎ォ、やっぱお前最先端だわ。 」 そう言って銃兎にひとつの袋を突き出した。 「アァ? なんだ気色悪ぃ」 「いいから開けろって。 巷で流行ってるゆるキャラらしいんだけどよ、大好きだと思って買ってきてやったぜ。 これでぴょん吉に会えなくても寂しくねーぜェ?」 袋に入っていたのはひとつの縫いぐるみで、タグには《うさ〇る》と記してあった。 「このアホヅラ、ピョン吉そっくりじゃねェか? なあ? 」 「バカにすんじゃねェぞコノヤロォ!」 「いやぁJKに大人気のウサギのゆるキャラの名前ウサギにつけるとか、流石巡査部長殿、恐れ入ったわ!」 銃兎の車の中に響くケラケラとした男の笑い声と、響く甲高い怒号は車が出発するまで続いたという。 それからというもの左馬刻はことある事にニンジンとうさま〇るグッズを持って現れるのであった。 いらんと突っ返そうと思ったそのぬいぐるみは、結局うさまるが気に入って遊び相手になったし、銃兎の車にも居座るハメになったという。

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『【ヒプマイ】入間先輩の調教シリーズ』

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誰かに愛されるというのも、悪くない。 理鶯といると、自分が愛されているのだと感じる。 誰も人は信じられないと思っていたが、理鶯なら信じてみてもいいのかもしれないと、どこかで思ってしまう自分がいる。 ふと隣を見ると、理鶯が微笑みながら、 「小官は貴殿を愛しているぞ。 」 と言う。 私もです、と言いかけて驚く。 自分が恋をしているのだと気付いて。 そして、正気に戻る。 こんな汚れた自分に恋など必要ない。 恋をすることなど、許されるわけがない。 俺は、そういった邪魔な感情を全て捨てて、麻薬をこの世から消すと誓ったんだ。 …理鶯といると、自分が自分でないような感覚に陥る。 自分が…幸せになってもいいような…そんな感覚。 「幸せになっていいわけないだろ。 」 もう一人の自分が耳元で囁く。 「見てみろよ。 もう手遅れなんだよ。 お前の手は汚れてる。 」 手元を見ると、血で染まった自分の手があった。 いつの間にか理鶯が目の前にいる。 そして、 「すまない。 貴殿とはもう、居られない。 」 と、理鶯が言った。 待ってくれ。 前が見えない。 隣を歩いていたはずの理鶯は、手を伸ばしても何処にもいない。 ずっと傍にいるって言ってくれたのに、何で一人で行っちゃうんだよ。 待ってくれ、置いて行かないでくれ。 俺を一人に……しないでくれよ… 「理鶯…。 」 そう言って、手を伸ばす。 その手は先程と同じく空を切る。 「………理鶯。 ……理鶯。 …理鶯。 」 返事をしてくれ。 もう一度その優しい笑顔で、心地よい低い声で、返事をしてくれ。 まだ、俺はお前に言えてないんだよ。 一人だけ告白して満足するなよ…。 「理鶯、何処にも行くな!俺の傍にいてくれ!」 「小官は此処にいるぞ、銃兎。 」 それまで空を切っていた手が、握られた…気がした。 何故今まで気が付かなかったのか。

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